Microsoftが2026年6月25日、Windows 10のサポート期限を静かに1年延ばした。プレスリリースは出なかった。サポートページの日付が書き換わっていただけだ。個人のユーザーには朗報に聞こえるかもしれない。だが法人にとっては、まったく別の話が始まっている。
なぜ今、Win10を延命したのか
2025年10月、Windows 10の通常サポートが終了した。セキュリティの穴が見つかっても修正プログラムが届かなくなる節目だ。Microsoftは長らくWindows 11への乗り換えを促していたが、実際には移行は進まなかった。
今回の延長は、ESU(拡張セキュリティ更新プログラム)という制度を通じて行われる。通常サポートが終わった後も、重大なセキュリティ更新だけを延長して提供する仕組みだ。今回の変更で、2025年10月から数えて計2年間の猶予が生まれた。
この告知に、プレスリリースはなかった。公式サイトのサポートページの日付が「2026年10月」から「2027年10月」に差し替えられただけだ。世界最大のソフトウェア企業としては異例のやり方で、Windows 11への移行が想定通りに進んでいないことを、静かに認めた形になっている。
移行が進まない背景には、二つの事情がある。
一つは、PCが急に高くなっていることだ。AI技術の発展で、AI処理に使われる半導体への需要が急増した。その余波でコンピューターに使われるメモリは前年比90〜95%、記憶装置のSSDは同55〜60%と大幅に値上がりした。国内のノートPCの平均単価は2026年4月時点で約13.8万円と、前年同期比で約3割上がっている(JEITA調べ)。「壊れたわけでもないのに、10万円以上出して買い替えなければならないのか」と思うユーザーが増えたのは、こうした事情によるものだ。
もう一つは、残っているPCの数の多さだ。2026年3月時点で、日本国内だけで約1,150万台のWindows 10が現役で動いている(MM総研調べ)。世界に目を向けても、2026年5月時点でWindowsパソコン全体の約26%がまだWindows 10だ(Statcounter調べ)。これだけの台数がセキュリティ更新なしに放置されれば、攻撃者にとって格好の標的が大量に生まれることになる。個人の問題を超えた、社会全体のリスクだ。
二つの事情が重なり、Microsoftは延長するしか選択肢がなかった。
個人は無償、法人は費用倍増
だが、この「延長」には注意が必要だ。個人向けと法人向けはまったく別の制度であり、費用の有無も仕組みもまるで違う。「無償で延長された」というニュースを見て安心した企業のIT担当者がいれば、それは個人の話だ。
個人が無償になる3つの条件
個人ユーザーが追加費用なしでセキュリティ更新を受け取るには、三つの条件を満たす必要がある。Microsoftが2026年6月25日に公開したサポートドキュメントに明記された条件だ。
一つ目は、Microsoftアカウントでパソコンにサインインしていること。二つ目は、「Windowsバックアップ」という機能を有効にしていること。三つ目は、OneDrive(マイクロソフトが提供するインターネット上のデータ保管サービス)にデータを保存していること。
この三つを満たしていれば、2027年10月12日まで追加費用なしでセキュリティ更新が続く。設定の確認はスタートメニューから「設定」→「システム」→「バックアップ」と開けばよい。届くのはセキュリティの穴をふさぐ修正だけで、新機能の追加や既存の不具合の修正は対象外だ。
これは個人のパソコンの話だ。
法人は2年目から費用が倍増
会社が管理するパソコンに、この無償制度は使えない。法人向けESUはまったく別の有料プログラムだ。
Microsoftのライセンス資料で公開されている費用は、1台あたり1年目が61ドル(約9,000円)、2年目が122ドル(約1万8,000円)、3年目が244ドル(約3万6,000円)と、毎年2倍になっていく。3年間続ければ1台の合計は427ドル、日本円で約7万円だ。台数の多い企業ほど、この積み上がりは重くなる。
| 個人向けESU | 法人向けESU | |
|---|---|---|
| 費用 | 無償 | 1年目61ドル→2年目122ドル→3年目244ドル |
| 条件 | 3条件あり | なし |
| 対象期間 | 2027年10月まで | 最大3年間 |
| 遡り課金 | なし | あり |
見落としがちな落とし穴が「遡り課金」という仕組みだ。法人向けESUは2025年10月のサポート終了と同時にスタートしており、後から参加しようとしても「1年目」に戻ることはできない。2026年10月以降に初めて申し込んだ場合、1年目と2年目の費用が一括で請求される。「様子を見よう」と先送りにするほど、出費が積み上がる構造だ。
Microsoftはこの逓増構造を通じて、法人に対し経済的な移行圧力をかけ続けている。
2027年で本当に終わるのか
費用が毎年倍になるとして、それはいつまで続くのか。「今回延長されたなら、また延ばされるのではないか」と思う人もいるだろう。制度の設計と過去の前例を見れば、少なくとも答えの輪郭は見えてくる。
個人向けについては、今回の延長(2027年10月12日)が「最後の救済措置」になる見通しが強い。追加延長を示す情報は現時点で出ていない。
法人向けのESUには、制度上の上限がある。最長でも3年間で、計算上の最終期限は2028年10月13日だ。かつてWindows 7のサポートを延長したとき、Microsoftはこの上限を超えなかった。同じ前例が繰り返されるとすれば、2028年秋が法人にとっての終点になる。
もう一つ、見落とされがちな条件がある。ESUでセキュリティ更新を受け取れるのは、Windows 10の最終バージョン「22H2」が動作している端末に限られる。スタートメニューから「設定」→「システム」→「バージョン情報」を開くと、「Windowsの仕様」の欄にバージョンが表示される。「22H2」と書かれていれば対象だ。それ以前のバージョンのままでは、延長があっても更新は届かない。
PC価格の高騰がこのまま続き、企業の移行が思うように進まなければ、Microsoftが2028年に再び判断を迫られる場面が来るかもしれない。ただし現時点で、それを示すMicrosoftからの発表も具体的な兆候もない。前例に基づく限り、2028年秋が終点だ。
「終わりは来ない」という根拠は、現時点ではどこにもない。それだけは確かだ。
