ネットで商品を買う前に、ChatGPTやGeminiといったAIに聞いてみる——そんな使い方が、もう3人に1人まで広がっている。ChatGPTはOpenAI、GeminiはGoogleが提供するサービスで、文章で質問を打ち込むと回答が返ってくる。購買の情報収集が検索とECサイト(インターネット上で商品を購入できるショッピングサイト)一辺倒だった時代に、AIが静かに入り込み始めている。
購買時のAI活用、3人に1人に
ZETA株式会社は2026年6月30日、「購買行動におけるAI活用状況に関するアンケート調査」の結果を発表した。2026年4月にECサイト利用者を対象に実施した調査で、商品購入の際の情報収集にAIを活用していると答えた人は全体の35.1%に達した。「よく使う」が9.7%、「たまに使う」が25.4%だ。なお、回答者数など調査の詳細概要は公表されていない。
使われているのは、ChatGPTやGeminiだ。一部の詳しい人だけのツールではなく、すでに多くの人が名前を知っているサービスが、買い物の場面にも入り込んでいる。
ただし、「AIが購買のすべてを変えた」という状況にはない。情報収集の入り口として最も使われているのは依然としてECサイト内の検索機能(63.8%)とGoogle(59.4%)だ。AIはこれらを置き換えたのではなく、その隣に並ぶ新しい選択肢として定着しつつある。
「AIを使って買い物する」と聞くと、何か大がかりなことのように聞こえる。だが実態は、スマートフォンで商品を調べ、比べ、選ぶという日常の行動の一部をAIに任せているということだ。では、その「一部」とはどの場面なのか。
使われているのは「比較」の場面
35.1%の人がAIを使っているとして、では何に使っているのか。ZETA株式会社の調査は、そのAI活用が購買プロセスのある一点に集中していることを示している。
比較に使う層は65%
「商品の比較が面倒だ」と感じている人のうち、65.4%がAIを「商品の比較検討」に使っていると答えた(ZETA株式会社「購買行動におけるAI活用状況に関するアンケート調査」、2026年6月発表)。全体平均の35.1%と比べると、約2倍の水準だ。
具体的な使われ方は「複数商品の性能・スペックをまとめてもらう」「自分の条件や用途に合う商品を絞り込んでもらう」という形が中心だ。AIで新しい商品を発掘するのではなく、すでに候補として挙がっているものをAIに整理させる——というのが実態に近い。
情報過多で離脱、51%が経験
なぜ比較の場面にAIが入り込んでいるのか。同じZETA調査では、ネット上の情報量が多すぎて自分で調べるのが困難になったと感じたことがある人が51.3%に上った。
ネットで商品を探せば、ECサイトのレビュー、比較サイト、メーカーの公式ページ、SNSの口コミ——と情報源は際限なく広がる。調べれば調べるほど選べなくなる、という経験をした人が半数を超えているということだ。その詰まりを解消するものとしてAIが選ばれている。
AIは検索エンジンの後継者ではない。検索やレビューサイトで集めた大量の情報を「まとめて・比べて・絞る」という、これまで自分の頭でこなしていた作業の代行役として、購買プロセスの比較フェーズに定着しつつある。
ただし、AIに絞り込んでもらったあと、そのまま購入へ進む人は少数派だ。ZETA株式会社の同調査では、AIで回答を得たあとにGoogleなどの検索エンジンで内容を確認する人が87%に上った。AIが「どれがいいか」を示し、最終確認は検索へ——という役割分担が、現時点での実態だ。
生成AIで購入決定、54%が経験
比較の場面にAIが入り込んでいる——では、その先の「買う」という決断にまでAIは影響しているのか。答えはすでに出ている。
マーケティング支援会社・PLAN-Bが2026年6月に実施した調査によれば、「AIにすすめられて実際に商品を購入した経験がある」と答えた人は54.2%に達した。2人に1人を超えた。AIは情報を整理するだけの道具を超えて、「この商品にしよう」という最後の一押しを担う存在になりつつある。なお、この調査の詳細な回答者数は公表されていない。
ただし、AIへの信頼は絶対的なものではない。PLAN-B調査でも同様の傾向が確認されており、AIにすすめられた商品を買ってはいるが、最後は自分でも確認したい——「頼っているのに信じきれない」という今の消費者の姿が、この数字の裏に透けて見える。
買い物の体験そのものにも変化が出ている。PLAN-B調査では、AIを使って買い物をした人のうち、かかる時間が「減った」と答えたのは28.9%、購入後の「納得感が増した」と答えたのは34.9%だった。比較という手間のかかる作業をAIに委ねることで、選ぶまでの時間が短くなり、選んだあとの後悔も少なくなっている。AIが購買体験に与える影響は、時間の短縮だけでなく、選んだあとの納得感にまで広がっている。
B2B購買でも急拡大、1年で2.7倍
この変化は、個人の買い物だけの話ではない。
会社がソフトウェアや業務サービスを選ぶ場面でも、同じことが起きている。HubSpot Japanが実施した「日本の営業に関する意識・実態調査2026」によれば、仕事として商品・サービスの購入を担当する人がAIを情報収集に使う割合は、2025年から2026年の1年間で4.3%から11.7%へと約2.7倍に拡大した。なお、調査対象の業種・企業規模の詳細条件および回答者数は公表されていない。
同調査では、AIから得た情報が「最終的な発注先の決定に影響した」と答えた担当者は55.3%に達した。個人の消費者がAIに任せているのは「多すぎる商品候補を整理して絞り込む」という作業だ。会社の購買担当者がAIに任せているのも、「多すぎる取引先候補を整理して絞り込む」という作業だ。対象が個人の買い物か会社の調達かという違いはあっても、AIに担わせている役割は同じだ。
個人でも会社でも、同じ変化が同時に進んでいる。この変化が単なる一時的な流行ではないことの根拠が、ここにある。
