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大林組が設計と工程管理に生成AIを本格投入──AiCorbとPROCOLLAは現場で何を変えたか
IT・通信 大林組

大林組が設計と工程管理に生成AIを本格投入──AiCorbとPROCOLLAは現場で何を変えたか

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「工期は変わらないのに、残業だけが制限される」──。
2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制。いわゆる**「2024年問題」**は、現場監督や設計者の働き方を根本から見直すことを業界に突きつけています。しかし現実には、人手不足は深刻化する一方で、工期の短縮は容易ではありません。

この逃げ場のない状況に対し、スーパーゼネコンの大林組は「生成AI」を単なる文章作成ツールとしてではなく、設計や施工管理といったコア業務そのものに組み込むことで、劇的な効率化に挑んでいます。

本記事では、大林組が開発・運用する2つの最新AIソリューション──設計支援AI「AiCorb(アイコルブ)」と工程管理AI「PROCOLLA(プロコラ)」を解剖。
大企業の事例を、中小建設業がどう活かせるかまで踏み込んで解説します。

この記事でわかること

この記事では主にこの4つについて解説しています。

  • 大林組は設計支援AI「AiCorb」を開発。手描きスケッチから複数のデザイン案を自動生成!
  • 施工管理では、AIクラウド工程管理システム「PROCOLLA」を導入。図面や見積書をAIに読み込ませるだけで工程表を自動作成し、工程管理の作業時間を約20%削減
  • 中小建設業がAI導入で失敗しないカギは「汎用AI→特化型AIの段階的導入」「セキュアな環境構築」「現場が使いやすいUI/UXの追求」の3つ
目次

建設業界の課題と、大林組が「生成AI」に注力する理由

「ChatGPTでメールの下書きを作るくらいなら、うちでもやっている」──そう感じる方もいるでしょう。
では、なぜ大林組は汎用AIでは満足せず、建設業務に特化したAIの開発に多大なリソースを投じているのでしょうか。その理由は、建設業界が抱える構造的な課題の深さにあります。

ズバリ!

大林組がAIに本気で取り組む理由は、この2つです。

人手不足 × 残業規制:人手が約200万人減。なのに労働時間には上限。「少ない人数 × 短い時間」で同じ成果を出す仕組みが必要

手作業 × 属人化の限界:設計のデザイン案作成も、施工管理の工程表づくりも、いまだにベテランの職人芸とExcel頼み。この構造を変えない限り生産性は上がらない

理由①:人手が不足しているのに、残業時間が規制されている

2024年4月から、建設業にも年間720時間(月45時間・年360時間が原則)の時間外労働上限が適用されました。5年間の猶予期間があったにもかかわらず、業界の体質は大きく変わっていません。

国土交通省の統計によると、建設業の就業者数はピーク時(1997年)の約685万人から、近年は約480万人まで減少。さらに全就業者の約35%が55歳以上という高齢化も進んでいます。つまり、「少ない人数で、しかも短い時間で、同じ成果を出さなければならない」という、これまでにないプレッシャーが業界全体にのしかかっているのです。

この状況を打開するには、個人の努力や根性では限界があります。一人ひとりの生産性を構造的に引き上げる「仕組み」が必要であり、その切り札がAIなのです。

理由②:手作業と属人的な業務から抜け出したい

建設業務の中でも、特に設計と施工管理には「職人芸」とも言える属人的な業務が数多く残っています。
たとえば設計の初期段階。発注者との合意形成のために、設計者は複数のデザイン案を用意し、何度も提案と修正を繰り返します。「もう少し開放的なファサードにしてほしい」「もう1パターン見たい」──こうした要望のたびに、手作業でスケッチやCADを起こすのには膨大な時間がかかります。

施工管理の現場では、工程表の作成・修正がExcelベースで行われていることも珍しくありません。工期の変更が入るたびに、何百行もあるExcelの工程表を手作業で調整する。文字の重なりを直す。印刷レイアウトを整える。現場監督が本来やるべき安全管理や品質チェックの時間が、こうした事務作業に侵食されているのが実態です。

大林組がAIに注力する理由は明快です。
「人がやらなくていい作業はAIに任せ、人間は本来のクリエイティブな判断と現場管理に集中する」──この思想が、同社のAI戦略の根幹にあります。

ファサードとは?

建物の正面側の外観デザインのこと。通りや広場に面する「建物の顔」にあたる部分で、ビルの第一印象を決める重要な設計要素です。

【成功理由その1】スケッチから一瞬でデザインを生成するAI!

大林組の代表的なAI活用事例の1つ目が、建築設計の初期段階を革新する「AiCorb(アイコルブ)」です。

手描きのスケッチが、瞬時に複数の3D・ファサードデザインに

AiCorbは、大林組が米国シリコンバレーの研究機関SRI Internationalと共同で2018年から開発に着手し、2023年7月に社内運用を開始した設計アシストAIツールです。

仕組みはこうです。AiCorbは「デザイナーAI」と「モデラーAI」という2つのAIで構成されています。

それぞれの役割

デザイナーAI
設計者が描いた手描きのラフスケッチや、建物のイメージを表現したテキストを入力するだけで、AIがレンダリング(完成予想図の作成)されたかのようなファサード(建物外観)デザイン案を複数生成します。Webブラウザ上で動作するため、タブレットでも操作可能。入力から出力までは1分足らずです。

モデラーAI
デザイナーAIで生成されたファサードデザインの特徴を読み取り、それを3Dモデルとして立体化します。さらに、設計者向けプラットフォーム「Hypar」と連携することで、敷地条件に基づくボリュームスタディからファサードデザインまでを一気通貫で検討できる体制が整っています。

大林組・設計本部の辻芳人部長は、AiCorbの位置付けについてこう述べています。「AIに設計を任せるのではなく、発想の幅を広げるためのアシストツール。実際に形にするには予算やボリュームの検討など、人間の判断が不可欠です」。

発注者との「合意形成」を劇的にスピードアップ

AiCorbの真価は、発注者との合意形成プロセスを劇的にスピードアップさせる点にあります。

従来の建築設計では、発注者にデザイン案を提示し、フィードバックを受け、修正案を再度用意する──このサイクルに数日から数週間を要していました。しかも、用意した複数案のうち採用されるのは多くても2つ程度。残りは「捨て案」になるわけです。

AiCorbを使えば、打ち合わせの場でその場にスケッチを描き、数十秒で複数のデザインバリエーションを提示できます。「もう少しモダンな雰囲気で」「窓の配置を変えてみて」といった発注者のリアルタイムな要望にも、即座に対応可能。

実際の例

こちらがAiCorbを使って作られたファサードです。
左の手書きスケッチから瞬時に複数のデザイン案をAIが出してくれます。

参照:大林組がAIツール「AiCorb」で描く“建築設計の未来”

これにより──

  • 提案〜合意までのリードタイムが大幅に短縮され、プロジェクト全体のスケジュールに余裕が生まれる
  • 「手戻り」が激減し、設計者がデザインの本質的な検討にリソースを集中できる
  • 発注者が「言語化できていなかったイメージ」をAIの出力を通じて具体化でき、顧客満足度が向上

まさに、AIが設計者と発注者の「コミュニケーションの壁」を取り払っているのです。

【成功理由その2】工程表の作成・調整をAIが自動化する

大林組のAI活用事例の2つ目は、施工管理の現場を支援する「PROCOLLA(プロコラ)」です。現場監督にとって最も時間を奪われる業務の一つ──工程表の作成と調整を、AIの力で根本から変革するツールです。

Excelでの「終わらないレイアウト調整」からの解放

PROCOLLAは、大林組の実務知見を基にArent社が開発し、オプライゾン社が販売するAIクラウド工程管理システムです。2025年4月から大林組の建築工事現場で試行運用が開始され、工程管理に関する作業時間を約20%削減できる見込みが確認されています。

最大の特長は、生成AIによる工程表の自動生成機能です。画面右上の「AIアシスタント」ボタンからチャット画面を開き、CAD図面や見積書などの現場資料をアップロードした上で、「工程の表示順はこう」「工種の分け方はこう」とプロンプトで指示を出すと、AIがその条件に沿って工程表のバーチャートを自動で引いてくれます。

さらに強力なのが、自然言語による工程変更指示です。「電気工事の工程を1週間前倒し」と入力するだけで、AIが該当するバーチャート部分を探し出し、関連する後工程も含めて自動的に調整。従来なら何時間もかけていた工程の組み替えが、チャットで指示を出すだけで完了します。

矢印で工程同士を繋いでおけば、前の工程を動かした際に後ろの工程もAIが自動でスライド調整する連動機能も搭載。急な設計変更にも素早く対応できます。

文字の重なりや引き出し線もAIが自動で最適化

現場監督の「隠れた苦労」として見落とされがちなのが、工程表の印刷レイアウト調整です。
Excelで作った工程表を印刷しようとすると、文字が重なる、セルからはみ出す、引き出し線が別の要素と被る──。こうした細かいレイアウト崩れを一つひとつ手作業で直していく作業は、地味ですが膨大な時間を消費します。特に工事が佳境に入る時期、現場監督が深夜まで「Excelの体裁直し」に追われるのは珍しい話ではありません。

PROCOLLAでは、文字が重なる部分をAIが自動検出し、引き出し線の設定や文字の配置を最適化してくれます。プレビュー画面で表示されている通りにそのまま印刷できるため、レイアウト調整作業が事実上ゼロになります。

このほかにも、クラウド上での複数人によるリアルタイム同時編集、マスタ工程と詳細工程の同一画面表示など、現場の「あったらいいな」を実現する機能が揃っています。PROCOLLAは2025年12月の建設DX展 東京にて生産性向上(施工管理)部門賞を受賞しており、業界からの評価も高まっています。

大林組の事例から学ぶ、中小建設業がAI導入で失敗しない3つのポイント

ここまで読んで、「大林組だからできた話でしょ。うちは中小だから関係ない」──そう思った方にこそ、お伝えしたいことがあります。

大林組が成功できたのは、AIツールを作ったからではなく、「AIを業務に組み込む際の考え方」をしっかり持っていたことです。この考え方は、会社の規模に関係なく応用できます。

サクッと読みたい人に要点まとめ!

押さえておくべきポイントはこの3つ!

  • 使い分け:メール・議事録は汎用AI、設計・工程管理のコア業務は特化型AI。いきなり特化型を作らず、まず汎用AIで慣れることから
  • セキュリティ:図面や入札情報の漏洩を防ぐため、Azure OpenAI等の「データが学習に使われない」閉域環境での構築が必須
  • 使いやすさ:現場が使わなければ意味がない。ドラッグ&ドロップで動かせるレベルの直感的UIが定着のカギ

ポイント①「汎用AI(ChatGPT等)」と「現場特化型AI」を使い分ける

生成AIの活用は、大きく2つの層に分けて考えるとうまくいきます。

第1層:汎用AIで十分な「周辺業務」

メールの文面作成、議事録の要約、社内マニュアルの検索、安全書類のドラフト作成──こうした「テキストベースの定型業務」は、ChatGPTやCopilotといった汎用AIで十分に効率化できます。導入コストも低く、すぐに効果が出やすい領域です。

第2層:現場特化型AIが必要な「コア業務」

一方、設計のデザイン検討や工程表の作成・調整といった、業界固有の知識と判断が求められる業務には、AiCorbやPROCOLLAのような業務特化型のシステムが必要です。自社の業務フローに合わせてカスタマイズされたAI、あるいは自社データを学習させた独自システムの開発が、競争優位性を生む源泉となります。

大切なのは、いきなりコア業務の特化AIを作ろうとしないこと。まず汎用AIで「AIに慣れる」ことから始め、どの業務にAIが効くかを見極めた上で、特化型への投資を判断する──このステップが失敗を防ぎます。

ポイント② 機密情報(図面・顧客データ)を守る安全な環境を作ること

建設業のAI活用で見落とされがちなのが、セキュリティの問題です。
図面データ、顧客の個人情報、入札価格に関する情報──建設業が扱うデータには機密性の高いものが多く含まれます。これらのデータを無料の汎用AIサービスにそのまま入力すると、データがAIの学習に利用されるリスクがあります。

業務の中核にAIを組み込む場合には、Azure OpenAI ServiceやAWS Bedrockといったエンタープライズ向けのクラウドサービスを活用し、データが外部に流出しないセキュアな環境(閉域ネットワーク)を構築することが不可欠です。

「入力されたデータがAIの学習に使われない」ことが保証された環境でこそ、安心して自社の図面や工程データをAIに読み込ませ、業務効率化に活用できます。中小企業であっても、この投資は「保険」ではなく「必須条件」です。

ポイント③ 現場の職人でも直感的に使える「UI/UX」が大事

AIシステムの導入で最も多い失敗パターンは、「導入したけど現場が使わない」です。

PROCOLLAの開発にあたり、Arent社は大林組の実プロジェクトで現場の声やフィードバックを直接反映しました。その結果生まれたのが、マウス操作とドラッグ&ドロップを中心とした、Excelに近い感覚で使えるUIです。現場の監督員が「これなら使える」と実感できるUI/UXを追求したからこそ、試行運用で20%の作業時間削減という成果が出ているのです。

AIシステムを外注開発する際には、必ず現場の作業員や監督員がプロトタイプを触るテスト期間を設けましょう。画面の見た目やボタンの配置一つで、ツールの定着率は大きく変わります。「使いやすさ」への投資は、AI投資そのものの成否を左右する最重要ファクターです。

まとめ

大林組の事例が示しているのは、AIは建設業の「面倒な事務作業」や「属人的な作業」を肩代わりし、人間がクリエイティブな設計判断や安全管理に集中できる未来をすでに実現しつつあるということです。

AiCorb:「設計者の発想力を拡張するアシスタント」
PROCOLLA:「現場監督の右腕となるデジタル工程管理者」
いずれも、AIが人間に取って代わるのではなく、人間がより価値の高い仕事に集中するための「仕組み」として機能しています。

そして、こうした変革は大企業だけのものではありません。汎用AIの活用から始め、自社の業務フローに合った特化型AIへとステップアップしていく──この段階的アプローチなら、中小建設業でも十分に実践可能です。

この記事のまとめ

この記事で重要なポイントは5つ!

  • 建設業の「2024年問題」により、限られた人員と時間で同じ成果を出す必要が生じている。AIによる生産性向上は「あると便利」ではなく「生き残りの条件」になりつつある
  • 大林組の設計支援AI「AiCorb」は、スケッチやテキストからファサードデザインを瞬時に複数生成。設計初期の合意形成にかかる時間と手戻りを大幅に削減している
  • 工程管理AI「PROCOLLA」は、図面の読み込みと自然言語での指示だけで工程表の作成・変更を自動化。試行運用で作業時間約20%削減の見込みが確認されている
  • 中小建設業でも、まずは汎用AI(ChatGPT等)で周辺業務を効率化し、効果を実感した上でコア業務向けの特化型AIへステップアップする段階的アプローチが有効
  • AI導入の成否を分けるのは「技術の高度さ」ではなく、「セキュリティの担保」と「現場が使いたくなるUI/UX」の2点

2024年問題はすでに始まっています。「いつかやろう」では、競合に先を越されてしまいます。
AIが先駆けているこの時代にいかに順応していくかが、今後の会社の成長を大きく分けることになっていきます。

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