AIを「試してみた」だけで終わっている日本企業は、決して少なくない。実際の業務システムに組み込もうとした瞬間、設計できる人間も手を動かすエンジニアも足りないという現実にぶつかる。その詰まった出口を開けようと、6万人超のエンジニアを抱えるプラットフォーム企業とAI実装の専門会社が組んだ。
TWOSTONE&SonsとアカツキAITが業務提携
2026年5月27日、TWOSTONE&Sons(東証グロース上場)とアカツキAIテクノロジーズが業務提携を発表した。
提携の軸になるのは「AIシステムインテグレーション(AI SI)」と呼ばれる領域だ。企業がすでに使っている業務システムにAIを組み込み、現場で実際に動く形に仕上げる仕事のことを指す。設計から開発、導入後の現場への定着まで一貫して担う点が、単なるツール販売や一時的なコンサルとは異なる。
AI導入を試みる企業は増えた。ただ、実証実験(PoC:本格導入の前に小規模で効果を検証する作業)の段階で止まるケースが後を絶たない。
TWOSTONE&Sonsはフリーランスエンジニア支援プラットフォーム「Midworks」を運営し、登録ユーザーは6万人を超える。アカツキAIテクノロジーズはゲーム会社アカツキグループのAI専門子会社で、企業のAI導入を技術面から支援してきた実績を持つ。一方は人材の量、もう一方は実装の質。その組み合わせが今回の提携の骨格だ。
では、それぞれが具体的に何を持ち込むのか。
6万人エンジニア×AI実装専門力の意味
PoC止まりの本質は、実装の局面で人材と設計力が同時に不足することにある。この2社が組む意味は、そこから来ている。
TWOSTONE&SonsのエンジニアプラットフォームMidworks
TWOSTONE&Sonsが運営するMidworksには、現在6万人超のフリーランスエンジニアが登録している。AI案件に必要なスキルを持つ人材を短期間で複数集める、その調達力が同社の核だ。
AI開発プロジェクトは規模によっては、設計から実装・テストまで数十人単位のチームが動く。一般的な採用では時間がかかりすぎる。6万人が集積されたプラットフォームがあることで、案件ごとに必要な人数を素早く編成できる。
アカツキAITのAI実装専門力
アカツキAIテクノロジーズが担うのは、AIをどう組み込むかの設計だ。企業の既存システムは複雑で、AIを後から足し込もうとすると想定外の摩擦が生じやすい。同社はKDDIや高エネルギー加速器研究機構(KEK)をはじめとする組織のAI導入を手がけてきたと発表している。
アカツキAITが事例として挙げるのは、営業担当者の意思決定をAIが支援する仕組みや、ベテラン社員の業務ノウハウをAIで継承するシステムなどだ。いずれも汎用ツールを導入して終わりではなく、その企業の業務フローに沿って設計した案件だとしている。現場の業務を読みながらAIの接続点を設計するノウハウは、そこで積み上げてきたものだ。
IDC Japanの調査によると、国内のAIシステム市場は2024年時点で約1兆3,400億円規模だが、2029年には約4兆1,900億円まで拡大すると予測されている。5年で3倍超の需要が見込まれる中、それを受け止める実装体制が整っていなかった。この提携が埋めようとしているのは、その空白だ。
では、この体制は実際の支援としてどう機能するのか。両社が共同で立ち上げた「AI Office」の中身が、それを示している。
AI Officeが変える実装支援の中身
「AI Office」は、両社が共同で展開するAI SI支援の統合サービスブランドだ。新会社の設立ではなく、両社の強みを一つの窓口でまとめて提供する仕組みとして位置づけられている。製造・医療・金融など、業種を問わない汎用型の体制として展開する。
AI Officeが担う最初の仕事は、業務の棚卸しだ。「どの業務にAIを入れるか」を決めないまま開発に入ると、使われないシステムが出来上がる。現場の業務フローを整理し、AIを差し込める接続点を特定するところから始まる。
そこから先がAI SIの本体だ。企業の日常業務を支えるシステム——顧客管理や在庫・会計の基幹システム——にAIを組み込んでいく。あわせて、AIが実際の業務データを参照しながら動けるようにデータ分析の基盤も整備する。ツールが現場で機能し始めるのは、そこまで整って初めてだ。
ただ、システムを稼働させるだけでは実際には使われない。AIツールを導入した後に「結局、誰も使っていない」という状況は珍しくない。AI Officeの支援はその先まで含む——社員が日常業務の中でAIを使いこなせるようになるための研修と定着サポートまでをセットで提供する。業務の設計から実装、そして社員が実際に動かせる状態になるまで、一貫して伴走する体制だ。
受け皿としての体制は整った。PoCを終えて手詰まりになっている企業に向けた選択肢が、ようやく一つ増えたことになる。この仕組みを使って実際にAIを動かした企業の事例が積み重なれば、提携の実力も測られていく。
