携帯電話の会社が、電池の工場を自分で建てる。2026年5月、ソフトバンクが明らかにした計画は、一言でいえばそういうことだ。場所は大阪・堺市にある旧シャープ工場の跡地——かつて日本の製造業を象徴した液晶パネル工場が、AI時代の電力インフラに生まれ変わろうとしている。
ソフトバンク、堺工場跡地に蓄電池工場を建設
その背景にあるのは、AIが引き起こしている電力需要の急膨張だ。AIを処理する最新のサーバーラック(機器を並べる棚)1台あたりの消費電力は、従来と比べて10倍以上に跳ね上がっている。国内でも、データセンターの電力消費は日本全体の約3%に達しつつあり、5年前の倍のペースで増え続けている。
AIを動かすには電気が要る。しかも、これまでとは桁が違う量が。
2026年5月11日、ソフトバンクは堺市の旧シャープ工場敷地内に蓄電池の製造工場「GXファクトリー」を建設すると発表した。2027年度中に製造を開始し、2028年度には年間1GWh(ギガワット時)規模の量産体制を整える計画だ。GWhは電力・電池の生産量を示す単位で、この水準は国内工場では上位に入る規模になる。
同じ敷地では「大阪堺AIデータセンター」の建設も進んでいる。2026年中の稼働を目指し、将来は400MWを超える受電容量を想定している。KDDIもすでに2026年1月に同敷地内でデータセンターを開所しており、この場所は通信大手が集まるAI拠点として動き出している。
ソフトバンクがこの土地を取得したのは2025年3月のことだ。旧シャープ堺工場の土地と建物の約6割にあたる約45万平方メートルを、約1,000億円で買い取った。液晶パネルを量産していた工場が、電池とAIの拠点に変わる。
「水で動く」電池を選んだ理由
ソフトバンクが堺の工場で作るのは「亜鉛ハライド電池」と呼ばれる種類の電池だ。スマートフォンや電気自動車に使われているリチウムイオン電池とは、根本的に異なる仕組みを持つ。最大の違いは、電気を通す液体(電解液)に「真水(純水)」を使うことにある。
燃えない電池が、データセンターに向いている理由
リチウムイオン電池には構造上の弱点がある。電解液に可燃性の有機溶媒を使っているため、過充電や強い衝撃で過熱すると発火することがある。スマートフォンや電気自動車での発火事故は、この性質によるものだ。
亜鉛ハライド電池の電解液は真水だ。水は燃えない。発火リスクは原理的に存在しない。
データセンターには膨大な数の電池が並ぶ。その一角で火災が起きれば、建物全体のシステムが止まりかねない。電力インフラとして電池を大量に扱う場所では、「燃えない」という性質が決定的な意味を持つ。
エネルギー効率の面でも、現在主流のリチウムイオン電池(LFP型)より10%以上高いとソフトバンクは発表している。蓄えた電力をより無駄なく引き出せることを意味する。
素材を「中国頼み」から変える
亜鉛ハライド電池が選ばれた理由はもう一つある。リチウムイオン電池の製造に欠かせないリチウムやコバルトは、採掘・精製の多くを中国が担っており、価格も供給量も相手国の動向次第だ。
亜鉛ハライド電池の主原料は亜鉛で、産地が分散しており調達しやすい。特定の国に頼り続けない電池の原料——それが、この電池を選んだもう一つの理由だ。
この電池を製品化するにあたり、ソフトバンクは韓国のスタートアップ2社と組んだ。電池セルの開発を担うCOSMOS LABと、蓄電システムの構築を手がけるDeltaXだ。協業により実現した「20フィートのコンテナ1本に5.37MWh(メガワット時)を蓄えられるシステム」について、ソフトバンクは「世界最高水準の蓄電容量」と位置づけている。
電力を「自前で完結」させる戦略
なぜ通信会社が、電池の工場を自分で建てなければならないのか。
答えは、電気を「外から買い続けるリスク」にある。AIデータセンターが膨大な電力を消費する時代になれば、電力会社から電気を買うコストは上がり続ける。価格は相手次第で、量の確保も保証されない。ソフトバンクはその依存関係を断ち切ろうとしている。
発電・蓄電・演算・通信を一体化
グループ会社のSBエナジーが太陽光などの再生可能エネルギーで電気を作る。その電気を、GXファクトリーで製造した自社の電池に蓄える。蓄えた電力を、同じ堺の敷地に建設中の「大阪堺AIデータセンター」がAIの計算処理に使う。その結果を、ソフトバンクの通信網が届ける。
発電→蓄電→演算→通信。この4段階を1社のグループ内で完結させる——それがソフトバンクの描く構造だ。
電力会社に依存しなければ、電気料金の高騰に振り回されない。AIインフラの運用コストが予測できるようになる。充放電のタイミングを管理する「AIエネルギーマネジメントシステム」も自社開発し、電池を最も効率よく使える仕組みも内製で固める。
ただし、この「完結」には現時点での課題もある。大阪堺AIデータセンターが将来目指す400MW超の電力需要を、SBエナジーの再エネ供給だけで賄えるかは明らかにされていない。電力会社への依存をどこまで下げられるかは、SBエナジーの発電能力の拡大次第という側面もある。
企業向けから家庭向けへ、そして海外へ
ソフトバンクはこの電池を自社だけで使うつもりはない。
まず自社のデータセンターや全国の通信基地局に導入して実績を積み、次に工場や産業向けに販売する。その先には家庭向けの蓄電池も視野に入れている。太陽光パネルで発電した電気を自宅に蓄えておく「家庭用蓄電池」は現在リチウムイオン電池が主流だが、燃えない・効率が高い亜鉛ハライド電池が普及すれば、その選択肢が変わる可能性がある。
さらに海外展開も想定しており、2030年度の売上目標は1,000億円だ。ソフトバンクの年間売上が約6兆円規模であることを考えれば、全体の2%にも満たない数字だが、「通信以外で稼ぐ事業を自前で作る」という意味での第一歩だ。
次は誰が動くか
AIが急拡大するなか、電力をどう安定して確保するかはどの国・どの企業でも共通の問いになりつつある。チップの性能や処理速度だけが競争の軸だった時代は、電力コストの現実の前で変わり始めている。
この問いに「自分で電池を作る」という答えを出したのが、今回のソフトバンクだ。大量のデータセンターを抱えるテック企業や、他の通信会社がこの動きに続くかどうか——それが次の焦点になる。
