米国企業の約半数が、すでにAIを「導入している」と答える。だが、完全にAIに任せられる業務は全体の20%にも届かない——世界最大の経営コンサルティング会社マッキンゼーをはじめ複数の調査機関が示してきた数字だ。ツールは揃っている。AIは賢い。それでも現場では「入れたのに使えない」が広がっている。その溝を、AIを作った側が自ら埋めに来た。
OpenAIがAI実装の専門会社を設立
ChatGPT——スマートフォンやパソコンから誰でも使える対話型AIとして知られる——を開発したOpenAIが、2026年5月11日、企業のAI導入を専門に支援する子会社を設立した。社名は「OpenAI Deployment Company」、通称「DeployCo(デプロイコ)」。外部パートナーが直接出資できる構造にするため、完全子会社ではなくOpenAIが過半数の株式を持つ形で発足している。
これまでのOpenAIは、AIを作って企業に渡す会社だった。使いこなせるかどうかは、導入した企業側の問題だった。DeployCoはその立場を変える。エンジニアが直接、企業の現場に入り込み、AIが実際に動くまで手を動かす。「道具を渡す」から「現場で動かす」への転換だ。
新会社の全貌と40億ドル
初期投資額は40億ドル(約6,000億円)超。パートナーには世界19社が名を連ねるが、公開されているのはソフトバンク、マッキンゼーなど一部にとどまる。ソフトバンクは日本国内での企業AI実装を担う主要パートナーとして参画した。
Tomoro買収で150人確保
設立初日から稼働できる体制を、OpenAIはすでに整えていた。
AIコンサルティング企業「Tomoro(トモロ)」を事前に買収。客先に入り込み、現場でAIを動かすことを専門とするエンジニア——社内用語でFDE(Forward Deployed Engineers)という——を約150名、一括で確保した。
FDEの仕事は、ツールを納品して去る従来型のITコンサルタントとは異なる。顧客企業の社員と同じ場所で働き、どの業務をAIに置き換えられるかを見極め、実際に動く仕組みを構築し、現場の人間が自力で使えるようになるまで離れない。「動いたら帰る」のではなく、「動くまでいる」体制だ。
ゼロから採用していれば、動き出しまでに時間がかかる。買収というルートで「初日から150人が現場に入れる」状態を作ったことが、この数字が示すものだ。
同日AnthropicもAI実装に参入
OpenAIが新会社設立を発表した5月11日、もう一社が同じ決断を下した。
「Claude(クロード)」というAIを開発するAnthropicは、ChatGPTと並ぶ対話型AIの開発会社だ。そのAnthropicが同じ日、中堅企業や金融機関を対象としたAI導入支援の新会社設立を発表した。規模は15億ドル(約2,300億円)。
示し合わせたわけではない。互いの計画を事前に共有する立場にない2社が、同じ日に、同じ方向へ動いた。
この同時性が示すのは、一社の判断ではなく業界全体の転換だ。AIの性能を競い合ってきた会社たちが、揃って「現場で動かす」ことへ軸足を移し始めた。競争の軸が変わりつつある。
競争軸が「性能」から「実装力」へ
AIモデルの性能差は縮まっている。ChatGPTとClaudeのどちらが「賢いか」という問いに、以前ほど明確な答えが出なくなった。どの会社のモデルも一定水準に達しつつある。
「性能の差」で戦えなくなった先に来るのが、実装力の勝負だ。AIが現場の業務フローに組み込まれ、実際に動き続けるかどうか——これが次の差別化になる。モデルが足りないのではない。「動かす」工程が足りていないのだ。
日本では、ソフトバンクがDeployCoの主要パートナーとして国内での実装を担う。日本企業がOpenAI経由でAI実装支援を受けようとすれば、ソフトバンクを通じることになる。AIを「入れるかどうか」から「誰と入れるか」へ——経営判断の問いが変わり始めた。
OpenAIとAnthropicが動いた。AIの勝負は、作る競争から動かす競争に変わった——AIを作る会社が自ら現場に降りてくるこのモデルが成立するのか、従来のコンサルとどう違うのか、答えはまだ出ていない。
