2026年4月29日、MetaはFacebookやInstagramを運営する会社として知られる巨大IT企業だが、この日発表した決算は過去最高水準だった。売上高は563億ドル(約8.8兆円)と前の年の同じ時期より33%増え、純利益は268億ドル(約4.2兆円)と61%増。10社あれば10社が「好調だ」と言うしかない数字だ。
好決算の翌日に8000人削減
ところが翌日、マーク・ザッカーバーグCEOは社内の全社会議でこう告げた。全従業員の約10%、およそ8000人を削減する、と。5月20日から実施するという。
普通、企業が大規模なリストラに踏み切るのは業績が悪化したときだ。赤字が続いている、売上が落ちている、そういう「やむを得ない事情」があるから人を減らす——そう思っている人がほとんどだろう。
Metaの説明は違った。ザッカーバーグはこう言った。「コストには2種類しかない。コンピューターと人間だ」。つまり、AIに使うお金を作るために人を切る、という論理だ。儲かっているからこそ切る。業績不振ではなく、投資の優先順位として人が外された。
ザッカーバーグは今回の削減対象について、「業績評価が低い社員(低パフォーマー)」と社内会議で説明している。ただし同時に、AIが担える業務を担っていたポジションの整理も含まれると報じられており、「人事評価」と「AI代替」の両面が混在した削減になっている。
これが、このニュースの核心だ。
AI投資は前年比2倍、1250億〜1450億ドルの幅
2026年、MetaがAI関連に投じる予算はおよそ1250億〜1450億ドル——日本円にして約19兆〜22兆円の幅だ。国家予算で言えば、日本の一般会計のおよそ2〜3割に相当する規模になる。昨年の実績(722億ドル)からほぼ倍になった計算だ。
この幅はMetaが決算発表で示した自社ガイダンスの下限と上限で、インフラ需要の拡大ペースや市場環境によって最終的な着地が変わる。ただし下限の1250億ドルでも昨年比7割増だ。この増加分の財源をどこから持ってくるかが問題になった。
コストは2種類、削るのは人件費
AIのためにサーバーやデータセンターに使う金を増やすなら、同じ分だけどこかを削る必要がある。Metaが削ることにしたのが人件費だった。
8000人の削減は、この「足し引き」の結果だ。好決算だから雇用を守る、という選択肢はMetaの計算式には登場しない。利益が出ているからこそ、その利益をAIインフラに全振りできる——そういう判断だ。
メタバースから生成AIへの重心移動
Metaにはかつて社運をかけた事業がある。「メタバース」——仮想空間のビジネスで次の時代を取りにいくという構想で、専門部門「Reality Labs」に数兆円規模を注ぎ込んできた。しかしその部門は今も四半期ごとに40億ドル超(約6200億円)の損失を出し続けている。
そのメタバース部門でさえ、今回の削減対象から外れなかった。赤字が続いているにもかかわらず、そこにいた人が切られ、お金はAIへ向かった。Metaの中で何が「次の賭け」なのかは、資金の流れが物語っている。
22兆円で何を作っているか
その22兆円は、具体的に何に変わっているのか。
ルイジアナ州の広大な土地に、AIが計算処理をするためのサーバーが集まった巨大な施設——いわゆる「データセンター」——が建設されている。その広さは約9平方キロ、東京でいえば山手線の内側の一部を覆うほどの規模だ。電気代だけで小さな市の消費電力に匹敵するとされる。
こうした施設に収容されるのは、AIの計算処理に特化した半導体チップ(GPU)だ。その供給を担うのがNVIDIAとAMDという世界を代表する半導体メーカー2社で、Metaは両社と数兆円規模の長期契約を結び、特定の1社に依存しない体制をとっている。
ザッカーバーグが言った「コンピューターのコスト」の正体は、このような物理的な施設と、そこで動く無数のチップに他ならない。8000人分の人件費は、こうしたインフラを支える電気代や機器代に姿を変えていく。
年後半も削減継続、止まらない構造転換
今回の8000人は、終わりではなく始まりだ。ザッカーバーグは社内全社会議で2026年後半にも追加の削減を示唆しており、年間で全従業員の約20%が対象になると複数の米メディアが報じている。5月の第1弾はその序章に過ぎない。
社内では、働き方そのものが変わろうとしている。Metaが進めているのは「AIポッド(AI Pods)」と呼ばれる小規模チームへの再編だ。以前は50〜100人がかけた仕事を、AIを使えば1〜2人でこなせる体制にする——具体的には、広告の最適化やコンテンツの分類といった作業をAIが担い、人間はその管理と意思決定に絞る形だ。ザッカーバーグが全社会議で語ったとされるこの構想が、すでに具体的な組織変更として動き始めている。
もっとも、その先が明るいとMetaの経営陣が保証しているわけでもない。CFOのスーザン・リは決算発表の場で「AIへの投資が将来の利益を圧迫するリスクがある」と自ら認めた。好決算を発表した当日、Metaの株価は一時6〜9%下落した。投資家が反応したのは利益の数字ではなく、「これだけの金をつぎ込んで、回収できるのか」という問いだった。
同じ構図は、Metaだけのものではない。Microsoftも2026年、好業績を続ける中で約8750人の削減を発表した。Amazon・Google・Microsoft・Metaの巨大IT4社が今年AIインフラに投じる総額は、各社の決算発表と投資計画を集計すると最大7250億ドル——日本円にして約114兆円に達する見通しだ。好業績でも人を切る。その浮いた資金でAIに投資する。この等式が、今や業界全体に広がっている。
ザッカーバーグのこの言葉が、一つの企業の判断を超えて、業界の論理になりつつある。それが何を意味するかは、まだ誰にも分からない。
