毎日当たり前のように開くLINEが、4月20日から変わった。
「Agent i」が始動した
LINEヤフーは、LINEとYahoo! JAPANという日本で最もよく使われる2つのアプリを運営する会社だ。そのLINEヤフーが2026年4月20日、「Agent i(エージェント・アイ)」という新しいAI機能ブランドを正式に始動させた。
これまで、LINEにもAI機能はあり、Yahoo! JAPANにもAI機能はあった。ただし、それぞれ別々のサービスとして動いていた。Agent iはその両方をひとつに束ねた。「LINEで話しかけたことが、Yahoo!ショッピングの購入につながる」ような横断的な動きが、これによって初めて可能になる。
使い方は難しくない。LINEアプリかYahoo! JAPANアプリを開き、専用のアイコンをタップするだけだ。基本機能は無料で使える。「週末に家族で行けるランチの店を探して」「このコートに合うバッグは?」——そう話しかければ、AIが代わりに動く。サービス開始時点では、お買い物・おでかけ・天気など7つの用途に特化したAIが使えるようになっており、夏までに20以上の領域へ拡大する見込みだ。
AIを日常的に使っている日本人はまだ少数派だ。それでも、LINEヤフーが公表する国内月間利用者数はLINEとYahoo! JAPANを合わせて約1億人規模にのぼる。AIを「使おう」と意識しなくても、いつものアプリを開けば、そこにAIがいる——Agent iが生み出すのは、そういう状況だ。
LINEヤフーの慎ジュンホCPO(最高製品責任者)は「タスクを実行するエージェントの時代へ入った」と語った。「検索して、比較して、選んで、購入する」という一連の手順が、ひとつの指示に変わる時代が、この規模で始まった。
AIが代わりに選んで買う時代
買い物エージェントの実力
「白いスニーカーが欲しい」と思ったとき、これまでの手順は決まっていた。検索窓にキーワードを入れ、何十もの結果をスクロールし、レビューを読んで比べ、ようやく選ぶ。Agent iはこの手順を圧縮しようとしている。
「AIお買い物メモ」は、欲しいものをメモするだけで始まる。Yahoo!ショッピングの商品候補が提示され、そのまま購入まで進められる。「AI比較マスター」では、比較したい商品と条件を伝えると、膨大な商品データをAIが横並びにして返してくる——複数のページを開き直す手間なしに、比較結果だけが手元に来る。
現時点ではここまでだ。ただ、2026年6月以降は一段進む予定となっている。AIが過去の利用履歴を記憶し、一人ひとりの好みに合わせた提案をする「メモリ機能」が追加される。さらに同じ時期、予約や購入をユーザーの代わりに自律的に完了させる機能も実装される見込みだ。今は「選んでくれる」、数ヶ月後には「買ってくれる」——その差は小さくない。
初期パートナーのひとつ、メガネブランドのZoffは、その先を先取りしている。購入から1年後、AIがLINEでチャットを送り、フレームの状態や最新トレンド、その人に似合うデザインを提案する。買い物が完了した瞬間が、関係の終わりではなく始まりになっている。
旅行・外出も丸投げできる
買い物以外でも、同じ構図が動く。2026年9月までに、レシピ、金融、航空券、子育てなど20以上の領域へ拡充される予定だ。
「今週末、子連れで行けるランチの店を探して」と話しかければ、複数のサービスを横断して候補が出てくる。航空券なら日程と予算を伝えるだけでよい。それぞれのサイトを開いて比べる作業が、一回の指示に収まる。
この方向に動いているのはLINEヤフーだけではない。Stripeジャパンが2025年に国内の大企業を対象に実施した調査では、AIによる自動購入代行の導入を検討している企業が約6割(57.5%)に上り、そのうち64.4%が3年以内に導入する計画だと答えた。消費者の手元で起きていることは、企業側にも波及し始めている。
企業側にも変化が起きる
LINE公式アカウントのAI化
LINEには現在、100万社を超える企業や店舗の公式アカウントが存在する。飲食店、アパレル、小売——あらゆる業種の企業が顧客とのやりとりにLINEを使っており、そのアカウント全体にAIが入ろうとしている。
2026年夏頃から提供が始まる「LINE OA AIモード」では、企業のLINE公式アカウントに来た問い合わせや予約をAIが自動対応できるようになる見込みだ。飲食店に「土曜日の夜、4人で予約できますか」とLINEで送れば、電話ではなくAIが席を押さえる——そういう流れが、100万社規模で動き始める。
セブン-イレブン、スシロー、ルイ・ヴィトンやディオールなどのブランドを傘下に持つファッション大手のLVMHをはじめとする20社以上の企業が、すでに連携に着手している。同年8月には法人向けの「Agent i Biz」も提供が始まる予定で、広告やEC(ネット販売)の戦略づくりまで、企業のAI活用を一括で支援する。
買い物のルールが静かに変わる
AIが選んで買う時代になると、消費者の買い物体験も変わる。
これまで店や商品と出会う経路は、検索か広告がほとんどだった。自分でキーワードを打ち込むか、目に留まった広告をクリックする——どちらも、自分が動くことで始まっていた。
AIが代わりに探して選ぶようになると、その入り口がなくなる。候補はAIが判断して選んだものだ。どの店が出てきやすいかは、Agent iへの対応状況によって変わる部分もある。
「自分で選ぶ」から「AIが選んだ中から選ぶ」へ——その移行が、1億人の日常の上で静かに始まっている。
