ロイターと日経リサーチが2026年5月21日に公表した調査がある。国内企業503社を対象に、AIロボット——自律的に判断して動く機械——の導入状況を聞いたものだ。
「3分の1」の内訳:導入済みは4%だけ
「約3分の1の企業がAIロボットの活用に前向き」。その数字だけ見れば、思ったより多いと感じるかもしれない。34%というのは、100社あれば34社が手を挙げている計算だ。
ところが、その34%の中身はこうなっている。実際にAIロボットを動かしている企業は4%。導入に向けた準備を進めているのが5%。残りの25%は「いずれ検討したい」と答えているだけで、まだ何も始まっていない。
残りの66%——つまり3社に2社は「導入する予定もない」と明確に答えている。これが2026年5月時点の、日本企業の現在地である。
自動車80%vs卸売94%——業種で真っ二つ
製造業が全体を引き上げている構造
では、動いている4%はどこにいるのか。
自動車・輸送機器メーカーに絞ると、80%が「導入済みまたは検討中」と答えている。この数字は全体平均の34%とは別の世界だ。工場でモノを作る会社は、もともと溶接や組み立てを担うロボットを動かしてきた。AIロボットはその延長線にある——既存の設備に「自律的に判断する頭」を乗せるイメージに近い。製造業にとってAIロボットは、ゼロから始める話ではなかった。
全体34%という数字は、こうした製造業——とりわけ自動車業界——が引き上げた結果だ。ただし、調査対象503社の業種別構成比は公表されておらず、製造業がどの程度の割合を占めるかは確認できない。「日本企業の3分の1」という言葉が示すのは、日本企業全体の温度感ではない。
卸売業——94%が「計画なし」
一方、仕入れて売る会社——卸売業——では94%が「導入する計画はない」と答えた。100社のうち94社が、検討のスタートラインにすら立っていない。
ロボットとの接点がほとんどない業種では、「次の一歩」を踏み出す以前に、「そもそも何ができるのか」がわからない。製造業が蓄積してきた設備と経験は、卸売業にはない。34%という数字が「思ったより多い」と映るとしたら、それは製造業が数字を押し上げているからであり、他の多くの業種にとっては他人事に近い話だ。
なぜ進まないか:6割がコスト、5割が人材不足
業種でこれほどの差がつく理由は、数字の中にある。AIロボットを「やってみたい」と思っていても動けない企業に、何が立ちはだかっているのか。調査では、2つの壁が同時に浮かび上がった。
導入コストの壁——中小企業との格差
最初の壁はお金だ。
AIロボットを入れていない、または入れるつもりがないと答えた企業に理由を聞いたところ、約62%が「初期コストが高すぎる」を挙げた。100社が断念する理由を並べると、62社がここで止まる。
設置から既存設備との接続、動作テストまでを含めた初期費用は重い。製造ラインを持つ大企業なら削減できる労働時間と照らして投資回収の計算が立つが、中小企業や卸売業にとってその計算の前提自体がない。「コストが高い」という回答は、単に「高い」のではなく、「回収できる見通しが立たない」という意味でもある。
現場にAIリテラシー人材がいない
2つ目の壁は人だ。
約43%の企業が「AIロボットを運用・保守できる専門人材が社内にいない」と答えた。機械を買っても、それを正しく動かし、異常が起きたときに対処できる人間がいなければ意味をなさない。
AIロボットはセンサーの精度調整、プログラムの更新、想定外の動作への対応——こうした作業を継続的に担える人材を必要とする。製造業の大企業には、設備の自動化を専門に扱うエンジニアが既にいる。卸売業や中小企業には、そうした役割の人間がそもそも存在しない場合が多い。
コストが高くても、使いこなせる人材がいれば検討の余地はある。逆に、人材がいても、コストが見合わなければ動けない。この2つが同時に壁になっているから、「検討中」の25%は検討したまま止まっている。
パナソニックのように年間18.6万時間を削減できた企業もあるが、それは投資体力と社内人材の両方を持っていたからこそ。製造業と他の業種の格差は、この差から生まれている。
人手不足を解消しようとしたら、専門家が足りなくなる
経済産業省は、2040年までにAIやロボットを扱える専門人材が国内で326万人不足するという試算を公表している。
今、企業を止めている壁の一つが専門人材の不足だ。その不足が今後さらに拡大するとすれば、導入のハードルは下がるどころか上がり続ける。
人手不足を解消しようとして入れようとした技術が、同じ種類の問題を生み出している。導入済み4%という数字は、そういう構造の先にある。
