GlobalLogicが「VelocityAI」を発表
日立製作所のエンジニアリング子会社GlobalLogicは、企業のAI導入を丸ごと手伝うサービス「VelocityAI」の提供を4月28日に正式発表した。
Google Cloudで正式提供開始
発表の舞台は、4月22〜24日にラスベガスで開かれたGoogleの年次イベント「Google Cloud Next 2026」だった。VelocityAIはGoogleのクラウドサービス上で動き、企業はGoogleの法人向けサービス購入窓口であるGoogle Cloud Marketplaceから導入できる。料金体系はGlobalLogicが現時点で公開しておらず、具体的な価格設定や契約形態は問い合わせによる個別対応となる見込みだ。
2つのソリューション構成
VelocityAIには使い道が2つある。
1つは、ソフトウェアの開発を速くすること。コードを自動生成したり、テストを自動化したりするツールを開発チームに提供する。リハビリ向けソフトウェアを手がける米WebPTはこの仕組みを導入し、試験運用から全社展開まで数週間で移行できたと報告している。
もう1つは、社内の日常業務をAI化すること。問い合わせ対応や業務フローの自動化など、現場の作業を肩代わりするAIエージェント——自律的に動くAIプログラム——を組織全体に展開することを支援する。ある米大手通信会社(社名・規模は非公開)では、顧客からの入電数が30%減り、通話時間も20%短縮されたとGlobalLogicは公称している。
強みは「日立が最初の顧客」だった事実
新しいAI導入支援サービスが出た、それだけなら珍しくない。このサービスが注目される理由は、売り出す前の経緯にある。VelocityAIは、外に向けて売り出す前に日立グループが自分たちで使い込んでいた。
多くのIT企業は、新しいAI支援サービスを作ったらすぐに他社向けに売り出す。自社での大規模な運用実績を持たないまま「導入支援します」と謳うケースは珍しくない。GlobalLogicはその逆の順番を選んだ。業界では「Customer Zero(自分たちが最初の顧客)」と呼ばれるアプローチだ。
5万人規模の社内実証
GlobalLogicのエンジニアは3万人以上がVelocityAIのトレーニングを受け、日常業務で使い続けてきた。日立グループ全体では5万人規模のエンジニア組織がある。この規模での先行運用は、机上の設計ではなく現場の摩擦——「どこで詰まるか」「何が使われなくなるか」——を身をもって経験することを意味する。
設計だけして納品するコンサルティングとの違いはここだ。VelocityAIは、少なくともGlobalLogic内では「動くことが確認された方法論」を持ち込む形になる。
社内実証の成果数値
GlobalLogicおよび日立が公称する社内実証の成果は、開発生産性30%向上、製品を市場に投入するまでの時間25%短縮という数字だ。これらはGlobalLogic自身が発表した数値であり、独立した第三者による検証ではない点は留意が必要だ。
「日立グループ内でうまくいったやり方が、全く違う業種・規模の企業でも同じように機能するか」——その問いへの答えはまだ出ていない。だが少なくとも、自社5万人規模での先行運用という事実は、競合する多くのAI導入支援サービスが持っていないものだ。
全社展開のハードルを下げる仕組み
では、なぜ他の企業ではAIの全社展開がそもそも難しいのか。AIを試験的に導入した企業の4社に3社は、そこで止まったままだ。BCGが2024年に公表した調査によれば、AIをビジネスに活用しようとしている企業のうち、実際に成果につなげられているのは26%に過ぎない。
試験導入が全社展開に至らない理由は、技術の難しさだけではない。「どう進めるか」という戦略の不明確さ、「誰が管理するか」というルール整備の遅れ、「既存のシステムとつながるか」という技術統合の問題——この3つが重なって、多くの企業をお試し止まりにしている。
専門家がいなくても動かせる
VelocityAIが最初に打ち出す解決策は、専門的なプログラミング知識がなくても使える設計だ。
通常、AIを社内業務に組み込むには、エンジニアがコードを書いて既存のシステムと接続し、動作を細かく設定する必要がある。これがボトルネックになり、「IT部門の順番待ち」で展開が止まるケースは多い。VelocityAIは画面上の操作でAIの動きを設定・変更できる仕組みを持ち、現場の担当者がIT部門を介さずに調整できることを目指している。どこまでをプログラミング不要で実現できるかは導入内容によるが、エンジニアが関与するポイントを絞り込むことで展開速度を上げる設計だとGlobalLogicは説明している。
MicrosoftのCopilot StudioやSalesforceのAgentforceなど、同様の「専門家不要」を掲げるAI製品は複数ある。VelocityAIがそれらと異なると主張する根拠は、技術仕様の優位性より「使われ方の実績」だ。5万人規模の社内運用から積み上げた「どこで詰まるか」のデータと、製造・医療・通信など特定業種への縦割り対応が差別化の軸だとGlobalLogicは位置づけている。
規制が厳しい業界への対応
もう一つの論点がデータの扱いだ。金融や医療など情報管理の規制が厳しい業界では、AIに社内データを読ませること自体が大きなリスクになる。VelocityAIは企業のデータが外部に流出しない設計を前面に出しており、こうした業界の「そもそも使えない」という壁を崩すことを狙っている。
あるグローバルヘルスケア組織(社名・規模・導入時期は非公開)への導入では、患者データの処理ワークフローにVelocityAIを組み込んだ結果、緊急症例への対応時間が25%改善されたとGlobalLogicは報告している。こちらも自称値だ。
製造現場という強みの領域
製造業では、さらに別の論点がある。工場の機械や設備が生み出す現場データにAIを組み合わせる動きは、製造業を長年の主要顧客に持つ日立グループが強みを発揮しやすい領域だ。センサーや制御システムが発するデータは扱いが難しく、現場を熟知した企業でないとAIとの接続に壁が生じる。純粋なクラウドサービス系のAI企業が参入しにくいこの領域を、GlobalLogicは差別化ポイントの一つとして打ち出している。
バックには、日立とGoogleの関係がある。2024年、両社は戦略的提携を締結した。提携の具体的な投資額や共同開発の範囲は公表されていないが、VelocityAIはその枠組みのもとGoogle Cloud基盤上に構築されている。
VelocityAIが企業のAI活用をどこまで変えるかは、まだ見えていない。ただ、「試験だけで終わらせない」という問題設定は正確だ。専門家不要の設計、データ保護、製造現場への対応——それぞれが「全社展開の前で詰まってきた場所」に対応している。自社5万人での実証を背景に、日立グループはその解に値段をつけた。
