ネットサービスの裏側を支えてきたクラウド大手AWSが、ロボットに人工知能を覚えさせる開発の費用まで肩代わりするプログラムを始動させた。その第1号に選ばれたのは、日本発の汎用AIロボット「Mi-Mo」を作るスタートアップだ。
AWSが国産ロボット「Mi-Mo」を採択
AWSとは、Amazonが運営するクラウドサービスだ。クラウドサービスとは、インターネット越しに大量の計算力を貸し出す事業のこと。ウェブサービスやスマホアプリの多くはこの仕組みの上で動いており、AWSはその世界最大手のひとつである。そのAWSが今度は、ロボットのAI開発に乗り出した。
2026年1月に立ち上げた「フィジカルAI開発支援プログラム」がその手段だ。フィジカルAIとは、パソコン画面の中で文章を生成するようなAIとは異なり、ロボットや機械を動かして現実の仕事をこなすAIのこと。このロボットAI開発を支援するために、AWSは計算コストと技術サポートをまるごと引き受ける仕組みを用意した。採択企業全体への支援総額は最大600万ドル(約9億円強)にのぼる。
ロボットにAIを「覚えさせる」ためには、膨大なデータを何度もコンピューターに処理させる必要がある。その計算量は数億円規模の費用になることも珍しくない。技術者はいても費用が出せない——日本のロボット系スタートアップが抱えるボトルネックに、AWSは直接手を差し伸べた形だ。
6月4日、プログラムの第1号採択企業として発表されたのが、東京のスタートアップ・株式会社Jizaiだ。同社が開発する「Mi-Mo(ミーモ)」は、周囲の状況を視覚や音声で認識し、状況を判断して動く国産のAIロボットである。工場のアームのような「決まった作業専用」の機械とは異なり、さまざまな状況に対応できる「汎用型」を目指している点が特徴だ。Jizaiは2024年6月、元メルカリのAI幹部・石川佑樹氏が設立した会社だ。
Mi-Moが目指す「汎用」という設計
工場のロボットは、溶接専用、仕分け専用といった具合に、最初から役割が決まっている。一つの仕事をこなすための機械として設計されているからだ。Mi-Moは、その逆の発想で作られた。何に使うかをあらかじめ決めず、使う側がハードウェアとソフトウェアを組み合わせてカスタマイズできる——そういう「汎用型」のロボットだ。
たとえば、店舗では来客に声をかけて商品の場所を案内する、倉庫では棚から指定の品を取り出して渡す、オフィスでは会議の準備を手伝う——想定する使い方は一つではない。石川CEOはそれを「カスタマイズできる汎用ロボット」と表現する。決まった役割を持たないロボットが、どこまで実用的な存在になれるか。そこに同社の賭けがある。
メルカリの「目」がMi-Moの「目」になった
石川氏がロボットの世界に踏み込んだのは、ソフトウェアとAIの専門家としての視点からだ。国内最大のフリマアプリ「メルカリ」でAI開発を統括する幹部職を経て、Jizaiを立ち上げた。
メルカリでは、出品写真から商品を自動識別したり、利用者の行動パターンから不審な取引を検知したりするAIを実用レベルに磨いてきた。「カメラで見たものを瞬時に判断して次の行動を決める」——その技術の核心は、Mi-Moが周囲の環境を認識して自律的に動く仕組みとまっすぐにつながっている。ハードウェアではなく、AIとソフトウェアの側からロボットに挑むMi-Moの設計思想は、ここから来ている。
屋内に溶け込む設計と自律動作
Mi-Moの外見は工場のアームとは大きく異なる。天板や足には木材が使われており、家具のような佇まいだ。家庭、店舗、オフィスの空間に置いても威圧感がない。人の隣に立つことを最初から想定したデザインといえる。
動き方も独特だ。カメラで周囲を見て、声で指示を受け、自分で状況を判断して体を動かす。たとえば「棚の上の荷物を取って」と声で頼めば、周囲の空間を確認しながら腕を動かして渡す。人間がひとつひとつ命令しなくても、環境の変化に応じて行動できる。この自律的な動作が「汎用」を成立させる核心だ。
2025年1月、世界最大級の家電見本市「CES 2025」でMi-Moは初めて公開された。その注目が、今回のAWSプログラム採択へとつながっている。だが、こうした汎用ロボットのAIを鍛えるには、途方もない計算資源が必要になる。
支援内容は資金と技術チームのセット
支援の柱は2本だ。1本目は「AWSクレジット」——Amazonのクラウドサービスをそのまま使える利用券のようなものだ。ロボットのAI開発に欠かせない計算費用をAWSが実質的に肩代わりする仕組みである。
2本目は人の支援だ。AWSの設計担当「ソリューションアーキテクト」と、試作品の実装を直接手がけるエンジニアチーム「PACE」が、開発チームに伴走する体制が組まれる。補助金のように「お金を渡して終わり」ではなく、技術的な問題に直面したとき一緒に解決に当たる専門家が付く。資金援助との最大の違いはそこだ。
Jizaiと同時に採択された株式会社LexxPlussも、同じ枠組みを活用する。産業用ヒューマノイド「LexxMoMa」の開発加速にAWSの計算資源を使う。AWSはさらに、採択企業と製造業・物流業などの導入検討企業とをつなぐマッチング機会も提供するとしており、日本のロボット開発を包括的に後押しする枠組みとして機能しはじめた。
少子高齢化で労働力不足が続く日本では、ロボットへの期待は今後も高まる一方だ。計算コストというボトルネックを取り除いた先に、急拡大が見込まれるロボット市場がある——クラウドの世界最大手がロボット開発の現場に踏み込んだのは、その未来を見据えた動きだ。
