アリババが開発したAIモデル「Qwen 3.7-Max(クウェン)」が、独立機関による世界の性能ランキングで5位に入った。中国のAIとしては過去最高の順位だ。しかも価格は、ほぼ同等の性能を持つ競合モデルの半額以下。「中国製は安いが劣る」という前提が、数字によって書き換わった。
中国AI、グローバル5位に浮上
2026年5月26日、アリババはシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで初の国際カンファレンス「Qwen Conference」を開催し、最新モデル「Qwen 3.7-Max」を正式発表した。
独立評価機関Artificial Analysisが公開する「インテリジェンス指数」は、複数のテストを統合してAIモデルの総合的な能力を数値化した指標だ。Qwen 3.7-Maxはここで56.6ポイントを記録し、グローバル5位——中国製モデルとして歴代最高の順位——に入った。4位以内を占めるのは、OpenAIのGPT-5.5、AnthropicのClaude Opus 4.7、GoogleのGemini 3.1 Proといった、いずれも米国発の主力モデルだ。
米国大手より半額・性能は上回る
ランキングの数字より、企業の調達担当者が気にするのはコストだ。Qwen 3.7-Maxの価格を競合と並べると、話は単純ではなくなる。
主要競合の半額以下という価格
Qwen 3.7-MaxのAPI利用料は、100万トークンの入力あたり2.50ドルだ(トークンとはAIへの入力・出力の量を測る単位で、文字数に近い概念。使う量が多いほど料金が増える)。
これを米国の主要AIサービスと比べると、Anthropic(アンソロピック)の最上位モデルの約3分の1、同社の中堅モデルの約半額になる。大量にAIを使う企業ほど、この差は月次コストに直結する。AIルーティング基盤を提供するOrcaRouterは、Qwen 3.7-Maxへの切り替えでLLM支出を40%削減したと報告している。
難問テストでも主要競合を上回る
AIの論理思考力を測る指標として広く使われる難問テスト「GPQA Diamond」(博士レベルの科学的推論で構成されたベンチマーク)では、Qwen 3.7-MaxがAnthropicの中堅モデルを上回る92.3%を記録した。プログラミング性能でも、主要な競合モデルを超えるスコアを出している。
35時間、人間なしで仕事を続けた
Qwen 3.7-Maxは、単なる「質問に答えるAI」ではなく、人間の代わりに複数の作業を自律的にこなすAIとして設計されている。
指示したら翌日には終わっていた
「AIエージェント」とは、指示を与えると自分で考え、複数の作業を順番にこなしていくAIのことだ。人間が逐一指示を出す必要がない。Alibaba Cloudは5月26日のカンファレンスで、Qwen 3.7-Maxを使ったエージェントのデモ映像を公開した。
デモでは、人間が一切手を出さないまま、AIが35時間連続で稼働し続けた。その間にこなした操作回数は1,158回。タスクの内容は、コンピュータの計算処理速度を自動で改善することだ。AIが自分でプログラムを解析・書き直し、処理速度を従来比約10倍に引き上げた。「AIに仕事を頼んだら、翌日には終わっていた」という状況が、デモとして実演された形だ。
このデモが想定しているのは、チャットで質問に答えるような用途ではない。企業の現場で発生する、複数の手順が絡み合う複雑な業務を、AIが一気通貫で処理することを前提にした設計だ。
サーバー管理もエージェントに
Alibaba Cloudは今回、Qwen 3.7-Maxを自社のAIエージェント構築プラットフォームに統合することもあわせて発表した。企業のサーバーを常時監視して問題が起きたら自動で対処する、といった作業をAIが担う構成だ。通常はエンジニアが担ってきた役割だ。
企業がAIに求めるものは、「賢い答え」から「任せられる仕事」へと変わりつつある。35時間のデモはその変化を、時間という数字で可視化した。
乗り換えコストゼロの互換設計
35時間の自律実行というデモは印象的だ。だが「うちで使えるのか」という問いに答えなければ、それは他社の話で終わる。
Qwen 3.7-Maxには、実際の導入コストをほぼゼロに抑える設計が組み込まれている。ChatGPTなど米国のAIサービス向けに作られたシステムであれば、プログラムを一行も書き直さずにそのままQwen 3.7-Maxへ切り替えられる。いわば「コンセントの形が同じ」状態だ——プラグを差し替えるだけで動く。
「乗り換えコストゼロ」が現実の意味を持つのは、この互換性があるからだ。性能が上で価格が半額以下でも、移行に数ヶ月のエンジニアリング工数がかかるなら、多くの企業は動かない。コードを書き直す必要がないなら、話は変わる。
データはどこへ行くのか
ただし、導入を検討する企業が確認すべき点もある。Qwen 3.7-MaxはアリババのAPIを通じて利用するサービスだ。処理するデータはアリババのサーバーに送られる。米国の政府機関や金融・医療など規制の厳しい業界では、中国企業のサービスへのデータ送信を制限する規定が存在する場合がある。コスト比較と同じ文脈で、自社のデータポリシーと業界規制を照らし合わせる手順が必要になる。
そうした懸念がありながらも、実際の動きはすでに始まっている。AIモデルを利用できるプラットフォーム「OpenRouter」の2026年初頭時点の統計では、中国製モデルが利用ランキングの1位・2位を独占し、上位5モデルの総使用量の3分の2を占めていた。米国のAIスタートアップの約8割も、すでに中国発のモデルを採用しているという。いずれもQwen 3.7-Max発表前の数字だ。「いつか乗り換えるかもしれない」ではない。乗り換えはすでに起きている。
