会議が終わった直後、AIが別のツールを開いて作業を始める——そんなサービスをZoomが2026年6月1日に正式に提供を始めた。「ZoomMate」は、会議の内容を受け取り、顧客情報の管理ツールへの入力、タスクの登録、報告書の下書きまでを自動でこなす。月額20ドル(約2,900円)のサービスが、「会議のあとの手作業」を丸ごと引き受ける。
ZoomMateが代行する会議後の業務
これまでの会議AIは、発言を文字に起こし、要点をまとめた議事録を出力するものだった。「まとめる係」としてのAIは、会議が終わればその役割を終えていた。
ZoomMateは会議が終わってからも動き続ける。議事録を作るだけでなく、その内容を別のビジネスツールに書き込み、資料を生成する。「まとめる」から「仕事をやる」への転換だ。
SalesforceやJiraへの自動書き込み
営業担当者が取引先との商談をZoomで終えたとする。これまでは商談後にSalesforce(顧客の情報や商談の履歴を管理するビジネスツール)を自分で開き、話した内容や次のアクションを手で入力していた。ZoomMateはその作業を会議が終わった時点で自動でこなす。担当者がツールを開く手間はない。
開発チームのミーティングでも同じことが起きる。「このバグを来週中に直す」「仕様書を月曜日に出す」——会議の中で決まったタスクが、Jira(開発チームがタスクを管理するためのツール)に自動でチケットとして登録される。
ZoomMateが対応する連携先はSalesforceやJiraにとどまらない。顧客管理、プロジェクト管理、ドキュメント作成など複数カテゴリのビジネスツールへの書き込みをカバーしており、会議で決まった内容の行き先を一括して引き受ける設計になっている。
会議内容からの資料自動生成
ZoomMateが担うのは他ツールへの書き込みだけではない。会議の内容からレポートやプレゼン資料の下書きを自動で生成する機能も持つ。
たとえば、1時間の週次定例会議が終わった直後を想像してほしい。議題ごとの決定事項、残った課題、次週までの担当者別アクションが整理されたレポートが、何も操作しなくても手元に届く。営業チームなら、顧客との打ち合わせの内容をもとにした提案資料の下書きが出力される。人が書けば30分かかる作業が、会議終了と同時に終わっている計算だ。
「まとめてもらう」だけだったAIとは、役割が根本的に変わっている——このサービスはいくらで、いつから始まっているのか。
月額20ドル、6月1日北米提供開始
ZoomMateは2026年6月1日、北米での一般提供を開始した。料金は1ユーザーあたり月額20ドル。AIの処理に必要なクレジットが含まれる価格だ。企業がまとめて契約する直販と、個人がオンラインで購入する方法の両方が使える。
日本を含むアジア太平洋地域やヨーロッパへの展開は、2026年後半を予定している。
背景には需要の確かな裏付けがある。ZoomのAI機能「AI Companion」(AIを使った会議補助機能)の有料ユーザー数は、2026年第1四半期に前年比約3倍へと急増したとZoomは発表している。会議メモを自動整理する「My Notes」機能は、リリースから4ヶ月で150万ユーザーに達した(いずれもZoom発表)。「まとめてくれるAI」への需要が確認できたところに、「仕事をやってくれるAI」を投入した構図だ。この成長の背景には、マイクロソフトやGoogleとは根本的に異なる戦略がある。
マイクロソフトやGoogleとの違い
マイクロソフトのAI「Copilot(コパイロット)」はTeamsの会議データしか扱えない。GoogleのAI「Gemini(ジェミナイ)」が処理できるのもGoogle Meetの会議に限られる。どちらも自社サービスの枠の中で完結する設計だ。
ZoomMateの設計はその逆を向いている。TeamsやGoogle Meetの録画や議事録データも取り込み、まとめて処理できる。複数の会議ツールを使い分けている企業でも、窓口はZoomMate一つでいい。
企業側にも、ツールをまとめたいという事情がある。米国のGainsight(ゲインサイト)では、社員がばらばらに使うAIメモツールが情報漏洩のリスクになるとして、それらをZoom AI Companionに統一した。AIが便利になればなるほど、「どのツールに何を任せるか」の管理が企業の課題になってきている。
Zoomはこの考え方を「System of Action(行動のシステム)」と呼ぶ——ツールをつなぐのではなく、会議で決まったことを実際の行動に変える仕組みという意味だ。
「意思決定が生まれるのは会議の場だ。その文脈を握っていることが、私たちの強みになる」——ZoomのCPO(最高製品責任者)ラッセル・ディッカーはそう語る。会議の中身を知っているからこそ、その後の作業を正確に引き受けられるという論理だ。TeamsとOffice365の中で最適化するマイクロソフト、Google Workspaceの中で完結するGoogleとは、出発点が根本的に異なる。
この競争はZoomだけの動きではない。調査会社ガートナーは、2026年末までに企業向けアプリの40%にこうした「タスクを代行するAI」が組み込まれると予測する。2025年時点では5%未満だった数字が、1年足らずで一気に広がる見通しだ。なお、ZoomMateには会議映像の偽造(ディープフェイク)を検知する機能も含まれている。
会議はあらゆる意思決定が生まれる場所だ——その入口を押さえることで、企業の業務全体に関与しようというのがZoomの賭けだ。ただ、「議事録をまとめてもらう」ことへの信頼と、「顧客情報をAIに書き込んでもらう」ことへの信頼は、同じではない。そこまでAIを委ねる判断を企業がどこまで受け入れるか——賭けの行方は、まだ見えていない。
