NTT西日本が2026年6月23日、大阪市と福岡市にAI専用のデータセンターを新設すると発表した。AIの計算処理を担う施設がこれまで東京や海外に集中してきた構図が、西日本にも本格的な拠点ができることで変わろうとしている。
大阪・福岡に次世代DCを新設
福岡市博多区に「博多データセンター」を、大阪市中央区に「大阪南データセンター」を建設する。博多は2029年度、大阪は2031年度の竣工を予定しており、AIの計算処理に充てられる電力容量はそれぞれ5メガワット、8メガワットだ。一般家庭の消費電力で換算すると、それぞれ約1万世帯分、約1.7万世帯分に相当する規模になる。今回の事業にかかる総投資額は、NTT西日本の発表では明らかにされていない。
発表の背景には、AIの使われ方の変化がある。大量のデータを読み込んで賢くする「学習」から、学習済みのAIを毎日24時間動かし続ける「推論」へ——その需要は急速に拡大している。処理量が増え続ける以上、それを支える施設も増やすしかない。
AIは動き続けるほど熱を出す。新施設では水で冷やす「液冷方式」を採用し、冷却に使う電力を従来比で約50%削減できると試算している。さらに、NTTが開発した次世代ネットワーク「IOWN(アイオン)」の専用回線サービス「APConnect」を活用し、大阪・福岡の2拠点を一体的に運用できる体制を整える。
立地にも理由がある。福岡はアジア各国と日本を結ぶ海底ケーブルの陸揚げ局として機能し、台湾や韓国、東南アジアとのデータ通信を直接さばける拠点になる。大阪は市内の既存データセンター群と光ファイバーで直結し、都市型の処理ハブとして一体運用される。
NTTグループ全体では、2033年度までに国内データセンターの受電容量を現在の3倍超——1ギガワット規模——に引き上げる計画が動いている。一般家庭の消費電力に換算すると約220万世帯分に相当し、今回の大阪・福岡2拠点は、その西日本側の中核を担う。
設備を持たなくてもAIが使える、2つの仕組み
施設ができることと、企業が実際に使えることは別の話だ。新拠点の中身を見ると、これまで大企業にしか手が届かなかったAI処理能力を「買わずに借りる」形で提供する仕組みが整いつつある。
GPUaaSでGPUをクラウド提供
AIに計算させるには、「GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)」と呼ばれる専用チップが欠かせない。もともと画像処理向けに開発されたものだが、大量の計算を並列でこなす性質がAIとの相性が良く、今やAI処理の核心を担っている。問題は価格で、高性能なものは1台数千万円以上する。自社で購入できる企業は、ごく一部に限られてきた。
新データセンターでは、このGPUをクラウド経由で貸し出す「GPUaaS(ジーピーユー・アズ・ア・サービス)」を地域企業向けに提供する。数千万円の機材を買わなくても、使った時間と量に応じた料金を払うだけでAI処理が使える仕組みだ。提供するGPUの世代・型番や料金体系(時間課金か月額かなど)の詳細は、今回の発表では明らかにされておらず、サービス開始に合わせて順次公開される見込みだ。設備投資のハードルが下がることで、AI活用の選択肢が中小企業にも現実的なものになる。
機密データを国内で処理
AIを実業務で使おうとすると、避けて通れない問題がある。顧客の個人情報や社内の機密データをAIに読み込ませなければ、現場の仕事には役立てられない。しかし、そのデータを海外のサーバーに送ることには、法律上のリスクと情報漏洩への懸念が常につきまとう。
新拠点では、データを大阪・福岡の施設の中だけで処理する体制を整える。海外のサーバーに情報が出ることはない。この考え方を業界では「ソブリンAI」、日本語にすれば「主権AI」と呼ぶ——自国のデータは自国のインフラで扱うという原則だ。
NTT独自の国産AI「tsuzumi(つづみ)」も、この拠点から利用できるようになる。すでに大阪府の行政業務に導入されており、住民データを一切外部に出さない環境での活用が実証されている。行政が採用するほどのデータ管理水準が、民間企業にも届く形になる。
「近くで処理する」ことの効果、数字で見えた
地方企業がAIを業務に取り込もうとしたとき、立ちはだかってきた壁は「高い・遠い・データが心配」の3つだった。コストとデータの問題にはGPUaaSとソブリンAIという仕組みが応え、残るもう一つの壁が「距離」だ——処理を担うサーバーが東京や海外にあれば、指示を出してから結果が返るまでの時間が問題になる場面が出てくる。この壁については、すでに実験で答えが出ている。
ネットワンシステムズは2025年、大阪と福岡の拠点をNTTの「IOWN APN」——先に紹介したIOWNの光伝送網——でつなぎ、約600km離れた2地点間でロボットをAIでリアルタイム制御する実験を行った。同社が公開した実証報告によると、通常のインターネット回線を使った場合、ロボットの動きは1秒間に3.5回しか更新されず、動作が途切れ途切れになった。IOWNの回線に切り替えると、更新頻度は8.7回に上がった。指示を出してからロボットが動くまでのタイムラグが実用範囲に収まり、滑らかな制御が実現した。
行政の現場でも、変化は起きている。滋賀県では、NTT西日本グループが県職員の業務プロセスを見直し、生成AIとワークフローシステムを組み合わせることで書類作成や申請処理の自動化を実現した。個人情報の管理が特に厳しく問われる行政が実際に使えているという事実は、「うちの業種では難しい」という懸念に対する一つの答えだ。
東京や海外のクラウドに頼るしかなかった地域企業にとって、GPUを借りて使う、データを国内で完結させる、処理を近い場所で行う——この3つの選択肢が、同時に現実的なものとして届く。あとは、使いこなす側の準備が追いつくかどうかだ。
