2026年6月19日、日本でChatGPTに広告が入った。AIに質問したり相談したりすると、回答の近くに企業のメッセージが表示されるようになる。OpenAIが運営するチャットAI「ChatGPT」が、日本国内でも広告の受け入れを正式に始めた。
6月19日、日本で広告が始まった
広告が表示されるのは、無料でChatGPTを使っているユーザーと、月額1,400円の「ChatGPT Go」プランを使っている成人だ。有料プランのうちそれより高い「Plus」「Pro」「Enterprise」などの契約者には広告は表示されない。月額料金を多く払っているユーザーほど、広告が出ない設計になっている。
広告には必ず「スポンサー提供」のラベルが付く。AIが考えて出した回答と、企業がお金を払って掲載した広告は、見た目で区別できる形で表示される。
日本でこの広告に出稿できるのは、現時点では電通デジタル・Hakuhodo DY ONE・サイバーエージェントの3社を通じた企業に限られる。OpenAIが国内のパートナーとして選んだこの3社が、広告主の出稿支援や効果測定を担う。3社の選定理由や独占期間の有無、企業が直接出稿できるようになる時期について、現時点でOpenAIから公表はない。
広告の料金は、1,000回表示あたり約5,000円。一般的なウェブ広告と比べると割高な設定だ。この割高という設定には理由がある——ChatGPTの広告は、これまでのネット広告とは仕組みが根本的に違う。
検索広告と何が違うのか
相談の文脈に広告が入る新しさ
グーグルで「沖縄 ホテル 子連れ」と検索すれば、旅行サイトやホテルの広告が並ぶ。キーワード——入力した単語——に反応して広告を出す。これが今のネット広告の基本だ。
ChatGPTの広告は、単語ではなく相談の中身を読む。「来月、小さい子を連れて沖縄に行きたいんだけど、どのホテルがいいかな」という会話に対し、子連れであること、旅行の時期、その会話のやりとり、言語設定などのアカウント情報を参照して、その人に合いそうな広告を判断する。この仕組みをOpenAIは「コンテキストヒント(Context Hints)」と呼ぶ。OpenAIによれば、参照するのは現在進行中の会話とアカウント設定情報であり、過去のすべての会話履歴を遡る仕組みではないとされている。
何を検索するか、ではなく、何を相談しているか——広告が読む情報がここまで踏み込んだのは、広告の歴史でほぼ初めてのことだ。
なぜ企業は割高でも出したがるのか
アメリカでは4か月先行して、この広告が動いている。2026年2月から、Target、Adobe、Mazdaなどが試験的に出稿を始めた。
検索広告はキーワードが一致すれば誰にでも出る。旅行を調べているわけでもない人にホテルの広告が届くことも珍しくない。一方、旅行の相談をしているまさにその瞬間に出る広告は、そもそも関心のある人に届く確率が高い。タイミングも内容も、ユーザーの相談に即している——だから企業は割高でも出したがる。
サイバーエージェントは、AIで会話の内容に合わせた広告テキストを自動生成して対応する計画を示している。広告を出す側もまた、文脈に合わせて変化しなければならない。
広告がAIの回答を歪めないか
会話の中身を読んで広告を出す——と聞けば、多くの人が同じ疑問を持つはずだ。自分のチャット内容が広告主に見られているのか。そしてAIの回答が、広告主の都合に引き寄せられるのではないか。
広告主に会話は見えない
OpenAIは「回答の独立性」という原則を掲げている。広告主がお金を払っても、AIが返す答えの中身は変わらない——これが公式の立場だ。
広告主に渡るのは「何回表示されたか」「何回クリックされたか」という集計された数字だけだ。誰がどんな相談をしたか、チャットの内容や個人を特定できる情報は広告主には届かない。コンテキストヒントが参照した会話の内容も、広告の出し分けにのみ使われ、広告主には開示されないとOpenAIは説明している。
ユーザーが気に入らない広告を非表示にする設定、なぜその広告が表示されたかを確認する機能、そして自分に関する広告データをワンタップで削除する手段も用意されている。
ただし、これらはOpenAI側の説明であり、実際にその通りに運用されているかを外部から確かめる手段は、現時点では限られている。日本の個人情報保護委員会がこの仕組みをどう評価するかについても、現時点で公式の見解は示されていない。
広告を入れる会社と、入れない会社
同じくAIチャットを提供するAnthropic(アンソロピック)という会社は、広告の導入を全面的に拒否している。「AIとの対話は、人が考えるための空間であるべきだ」——これが同社の主張だ。Anthropicが開発するAI「Claude(クロード)」には、広告は入らない。AIに広告を入れるべきかどうかで、業界の意見は真っ二つに割れている。
OpenAIが広告に踏み切る背景には、AI開発に必要な膨大なコストがある。高性能なAIを動かすには巨大なコンピューター設備と電力が必要で、その費用は事業規模に比例して増え続ける。複数の米メディアが社内計画をもとに報じたところでは、OpenAIは2030年までに世界で約16兆円の広告収入を目指しているとされる。ただしこれはOpenAIが正式に発表した目標ではなく、報道ベースの数字だ。
AIとの会話に広告を入れるべきか——業界の答えはまだ出ていない。OpenAIは「回答の質は変わらない」と言い、Anthropicは「そもそも入れるべきでない」と言う。ユーザーの信頼を保ちながら広告収入を得る仕組みが本当に成立するのか。それは、これから実証されていく。
