ログリー、BtoB広告AIを6月から提供
BtoBとは「企業が企業に売る商売」のことだ。会計ソフトや業務システムを法人向けに販売するビジネスがその典型で、個人消費者ではなく企業の担当者が買い手になる。そのためのネット広告を、AIが24時間自動で回す——そんなサービスが月5万円で始まった。
ログリー株式会社は2026年6月3日、「ウルテク 広告AIエージェント」の提供を開始した。Google広告やMeta広告の入札調整(広告の掲載順位を決める価格競争を自動制御すること)から、データの読み解き、改善提案、報告書の作成まで、広告運用に関わる一連の作業を人間の手を借りずに実行する。稼働は24時間365日だ。
これまでBtoB企業が広告運用を本格的に行おうとすれば、専門の広告代理店に委託するのが一般的だった。相場は広告費の約20%。月100万円の広告を出稿すれば、20万円が手数料として代理店に渡る計算になる。ウルテク 広告AIエージェントの月額5万円という価格は、その構造に真正面からぶつかるものだ。なぜBtoB広告の自動化は、ここまで遅れたのか。そこには、AIが使えなかった構造的な理由がある。
なぜBtoB広告の自動化が遅れたか
理由の根本は、データの量だ。
ネット通販の広告を考えると分かりやすい。消費者が「商品を見た→クリックした→買った」という行動を、何万人もの人が繰り返す。AIはそのデータを手がかりに「こういう人がこのタイミングで広告を見ると買ってくれる」という法則を積み上げていける。
BtoBはそうではない。会計ソフトや業務システムを企業に売ろうとすると、担当者が資料を請求し、上司に報告し、予算会議を経て、役員決裁が下りて、ようやく契約——という流れが標準だ。広告を見てから契約まで数か月、場合によっては1年以上かかる。その間に何人もの決裁者が関わる。
「広告が効いたのか」が判明する頃には、AIが学ぶための「正解データ」がほとんど積み上がっていない。これがBtoB広告でAIの自動最適化が機能しにくかった構造的な理由だ。
法人は「平日昼間」しか動かない
データ不足に加え、BtoB広告には別の難しさがある。法人の担当者は、平日の就業時間にしかPCを開かない。
消費者向けの広告は深夜や週末でも効果を発揮する。しかしBtoB向けの広告は、土曜の朝や深夜に表示されても、その広告を見るべき会社の担当者はオフラインだ。広告費だけが消えていく。
従来の自動化ツールはこの点を補正できなかった。消費者行動をもとに学習した一般的なAIツールは「法人の勤務時間帯に広告を集中させる」という判断が苦手だった。月200万円規模の予算がなければAI運用は割に合わない、という業界の相場観は、この非効率を人手で埋めるコストを価格に織り込んだ結果でもある。
採用・学生向け検索との混在
もう一つ、BtoB広告固有の問題がある。
たとえば「業務システム 比較」と検索する人の中には、就職活動中の学生が業界研究のために調べているケースが含まれる。企業の購買担当者に届けたいはずの広告が、まったく関係のない層にも表示される。
専門的なソフトウェア名を検索するのは購買担当者だけではなく、そのソフトを学ぼうとする学生や、競合調査中のマーケターかもしれない。消費者向けのAI広告ツールは、こうした「BtoBの文脈にいない検索」を見分けることができなかった。
この2つの壁——時間帯の無駄と、ターゲット外への広告費の流出——を、ログリーはどう解決したのか。
AIが担う業務、入札からレポートまで
ウルテク 広告AIエージェントが引き受けるのは、これまで人間が週に何度もPCを開いてチェックしていた作業だ。「何時に広告を出すか」「どの検索語句を除外するか」「今月の成果をどう報告するか」——広告運用の実務を支える定型作業を、AIが代わりにこなす。
入札と時間帯の自動制御
「入札」とは、広告を検索結果の上位に表示させるために、広告主が競い合う価格のことだ。キーワードを検索するたびに、0.1秒以下のオークションが走り、最も高い金額を提示した広告主の広告が上位に出る。従来、この金額の調整は人間が週に数回ログインして手動で行うのが一般的だった。
ウルテク 広告AIエージェントは、この入札額を1時間ごとに自動で調整する。さらに、BtoB向けの初期設定が最初から組み込まれている点が特徴だ。スマートフォンよりPC経由での閲覧が多い法人担当者に合わせてPC配信を優先し、担当者がデスクを離れている土日深夜は入札を自動で抑える。就職活動中の学生や採用関連の検索語句も、初期設定の段階で自動的に除外対象に入る。
広告に使う文章や画像案——業界では「クリエイティブ」と呼ぶ——の作成も自動化されている。役職者や現場の業務担当者など、読み手の立場に応じた表現をAIが生成する。
異常検知とレポートを自動生成
広告の成果が急に落ちたとき、人間が気づくのは週次のチェック時、あるいは月次レポートを開いたときというケースが多い。その間にも広告費は動き続けている。
ウルテク 広告AIエージェントには「異常検知」機能が搭載されており、クリック率や成約数など主要な指標が急落した場合に自動で検知し、担当者に通知する。問題の発見を人間のチェック頻度に依存しない仕組みだ。
月次レポートの作成も自動で行う。従来、数字の収集から分析、資料化まで担当者が8時間程度を費やしていた作業が、最短5分で完了する。出力されるのは数値の羅列ではなく、「ここを改善すべき」という考察を自然な文章で添えたレポートだ。
BtoBマーケティング担当者の約9割がすでに実務でAIを活用している。配信データの分析や広告文の自動生成といった用途は広がっているが、「入札調整から異常検知、レポート作成まで一貫して回す」という運用の自動化は、これまで月5万円という価格帯では存在しなかった領域だ。では、代理店への手数料と比べると、コストの差はどのくらいになるのか。
月5万円、代理店費用と比べると
月50万円の広告予算なら、代理店への運用手数料は月10万円が相場だ。ウルテク 広告AIエージェントの基本料金は月5万円——差額の5万円は、広告費そのものに上乗せできる。
ただし、コスト比較の本質は金額の差だけではない。AI運用が現実的な選択肢になるには、これまで月200万円規模の広告費が必要とされてきた。それ以下の予算では、AI導入のコストに見合う最適化効果が出にくかった。月10万〜50万円の予算しか持てない中小企業にとって、高機能な自動化ツールは選択肢の外にあり続けた。今回の価格設定は、その層に初めて現実的な入口を示している。
初期費用は20万円だが、先着20社を対象に無料とするキャンペーンを実施中だ。既存の「ウルテク」契約企業は月額費用も無料となる。
コストだけが判断の根拠にはならない。24時間監視・自動調整という点では、人間の運用を物理的に上回る場面がある。担当者が深夜に入札を見直すことはできないし、週末に指標の異常を即時検知して対応することも難しい。一方で、BtoB特有の業界知識や例外的な状況への対応をAIがどこまでカバーできるかは、まだ実績が積み上がっていない。広告代理店への委託コストが重く、かつ社内に専任担当者を置けていない中小企業にとって、これまで手が届かなかった選択肢が初めて現実的な価格帯に入ってきた、ということは言えそうだ。
