電話会社が、巨大なコンピューター設備を建て、サーバーを自分で作り、電池まで売ると言い出した。ソフトバンクが2026年5月11日に投資家向け説明会で発表した中期経営計画の中身は、一言で言えばそういうことだ。
売上高7兆円の達成を足がかりに、AIへ舵を切る
まず、この会社が今なぜ動けるのかという話がある。ソフトバンクは2025年度(2026年3月期)の連結売上高が前年比7.6%増の7兆387億円となり、創業以来初めて7兆円の壁を超えた。スマートフォンの通信契約料や法人向けサービスが着実に積み上がった結果だ。「今ちゃんと稼いでいる」という土台があるから、次の大きな賭けに出られる。
その賭けが、新中期経営計画「Activate AI for Society(社会のためにAIを動かせ)」だ。AI、つまりコンピューターが自ら判断・処理する技術を動かすには、膨大な計算をこなす専用の設備が欠かせない。その設備を置く巨大な建物がデータセンターだ。ソフトバンクはこのデータセンターをはじめとするAIを支える基盤——いわばAIが社会の中で動くための「土台」——を自分たちが作ると宣言した。通信会社という看板を掛け替え、「社会のAIインフラを担う会社」へと転換する、というのが今回の発表の核心である。
1兆円が動く——データセンター、サーバー、基地局、電池まで
7兆円を稼いだ先に、何を作るのか。2026年度から3年間で、ソフトバンクはAI関連の設備に1兆円を投じる。そのうち3,000億円をデータセンターと蓄電池事業に充てる計画だ。通信回線を増やすのではなく、AIが動くための土台を一から作る——電話会社がこれだけの領域に踏み込むのは、異例のことだ。
国内2拠点に大型データセンターを建設
まず手をつけるのが、AIの計算を担うデータセンター(大量のコンピューターを集めた巨大な施設)の建設だ。拠点は国内に2つ構える。
1つ目は大阪府堺市。かつてシャープが液晶パネルを作っていた工場の跡地、約45万平方メートルを転用する。液晶の生産ラインがあった場所に、AI処理に特化した高性能な演算装置(GPU)を約10万枚相当並べ、2027年度の稼働を目指す。電力容量は東京ドーム照明設備の数百倍規模に相当し、将来的にはさらなる拡張を計画している。「テレビのパネルを作っていた工場が、AIの頭脳になる」——その転換を一枚の絵にしたような場所である。
2つ目は北海道苫小牧市。堺市との最大の違いは「電力の出どころ」だ。堺市が全国の電力網から供給を受けるのに対し、苫小牧は太陽光・風力といった再生可能エネルギーを100%使う「地産地消型」として設計されている。2026年度の開業を目指しており、最終的な規模は堺市を上回る見込みだ。AIの計算負荷を首都圏に集中させず、地方で電力も賄いながら動かす——その構想の出発点として位置づけられている。
NVIDIAらと組み、国産AIサーバー製造へ
データセンターを建てるだけでなく、そこに入れるサーバー(AIの計算を実行する機器)も自分たちで作ると言う。NVIDIAと連携し、AIサーバーを国内で製造する計画だ。
これまでの通信会社であれば、完成品を海外から買って並べるのが普通だった。それを「買う」から「組み立てる」に変える。部品を調達して国内で仕上げることで、供給の安定性を高め、設備の構成を自社の用途に合わせやすくする狙いがある。
全国の基地局をAI計算基盤に変える
全国に点在する携帯電話の基地局も、ただ電波を飛ばす設備から変えていく。AI-RAN(エーアイラン)と呼ばれる技術を使い、基地局の処理能力をAIの計算にも使えるよう転用するというものだ。
ソフトバンクはエリクソンと共同で「AITRAS(アイトラス)」という統合ソリューションを開発し、基地局経由でロボットをリアルタイムに制御する実証実験に成功している。ただし今回公表された実証は限られた環境での検証であり、全国の基地局への展開時期は「計画期間内に段階的に」とするにとどまり、具体的な展開規模やスケジュールは明らかにされていない。電話の中継点が、ロボットや自動化設備の「頭脳の延長線上」になる——その可能性を示した段階、というのが現時点の正確な位置づけだ。
バッテリー事業に参入——電力も自前で賄う
4つ目の柱が、蓄電池事業への参入だ。「亜鉛ハロゲン化物バッテリー」という大型蓄電池の技術を使う計画だ。スマートフォンに使われるリチウムイオン電池と異なり、大規模な据え置き型の設備に向いており、コストを抑えながら大量の電力を蓄えられるとされる技術である。製造・調達パートナーの企業名や事業化のタイムライン、供給規模といった詳細は、今回の説明会では開示されていない。
AIデータセンターは電力を大量に消費する。電力が足りなければ、どれだけ設備を作っても動かせない。電力の確保そのものを事業の一部として取り込む——そこまでやるという判断が、この参入の背景にある。
データセンター・サーバー・基地局・電池。4つの柱の組み合わせは、通信会社の設備投資という枠を大きく外れている。
2030年に営業利益1.7兆円——中期計画が描く財務目標
これだけ作って、どこまで回収できるつもりなのか。
ソフトバンクが掲げた目標は、2030年度(2031年3月期)に本業の利益を現在の約2倍に当たる1.7兆円、純利益7,000億円まで伸ばすというものだ。毎年10%ずつ成長し続けるという前提で積み上げた数字である。
投資の原資については「事業で稼いだ分でまかない、足りなければ外部から借り入れる」という方針だ。計画期間中の設備投資総額は1.5兆円で、通信網の維持に加えてAIインフラの建設が投資の中心になる。ただしソフトバンクはもともと借入が多い企業でもあり、資金調達の具体的な内訳は公表されていない。
成長の主軸に置くのが、企業向けのビジネスだ。行政機関や金融機関、製造業といった法人顧客へのサービスを拡大し、この部門の利益を2030年度までに現在の約2倍、5,000億円に引き上げる計画だ。その柱となるのが、自社開発の国産AI「Sarashina(サラシナ)」の商用化だ。日本語処理に特化して開発され、すでに一部の法人顧客へのパイロット提供が始まっているとされるが、モデルの規模や他社AIとの性能比較といった技術的な詳細は今回の発表では明らかにされていない。「行政や金融機関に売り込む」という方針の具体的な勝算は、実績が積み上がるまで見えてこない部分だ。
1兆円を投じて基盤を作り、法人向けで収益を積み上げ、2030年度に利益を大きく伸ばす——計画の輪郭はそういうものだ。電力、半導体、土地、人材、日本国内でAIインフラを動かすために必要なものはどれも不足している。その現実の中で、この計画がいつ、どこまで形になるかは、まだ問いのままだ。
