ソフトバンクグループ(SBG)は5月13日の決算発表で、ChatGPTを開発するOpenAIへの出資比率が11%であることを初めて公式に開示した。これまで非開示としてきた数字だ。2025年4〜12月の連結純利益は3兆1,727億円、前年同期の約5倍——過去最高水準となった。その利益の大部分を支えているのが、このOpenAI株の値上がり分である。
OpenAI出資11%を初公開、累計10兆円・13%への道筋
ChatGPTはスマートフォンやパソコンから誰でも使えるAIだが、その開発元であるOpenAIは株式市場に上場していない非公開会社だ。筆頭株主はマイクロソフトで、SBGは今回の決算開示でマイクロソフトに次ぐ第2位の大株主であることが確認された。
OpenAIの企業価値は現在7,300億ドル(約114兆円)と評価されている。その11%を持つ。
2025年3月の大型ラウンドで一気に積み上げた
SBGがOpenAIへの出資を本格化したのは2025年に入ってからだ。3月に完了したOpenAI史上最大の資金調達ラウンド(総額400億ドル)で、SBGが主導する形で約300億ドル(約4.7兆円)を拠出した。それ以前の出資分も合わせ、現時点での累計額は約5.4兆円になる。
今年2月にはさらに約4.7兆円の追加出資も発表している。2026年4月・7月・10月に3回に分けて拠出する計画だ。
累計10兆円、スタートアップ投資史上でも前例なし
これまでの出資額と今後の拠出予定を合わせると、累計で約10兆円になる。出資比率は最終的に13%を目指す。1社のスタートアップへの集中投資としては、前例がない規模だ。
SBGの帳簿上、この投資はすでに過去最高水準の利益を生んでいる。ただし、その利益が実際に手元に届いているかどうかは、また別の話だ。
純利益3兆1700億円——OpenAI評価益が原動力
3兆1,727億円という数字は、前年同期の約5倍だ。なぜ今年だけこれほど突出したのか。最大の要因は、保有するOpenAI株の値上がり分を帳簿に計上したことにある。
ただし、この利益の大部分は実際に株を売って得たお金ではない。保有株の評価額が上がった分——まだ売っていない段階での含み益——を利益として算入したものだ。家に例えるなら、10年前に買った家が今3倍の値段になった状態に近い。帳簿上は大きな利益だが、売らない限り手元には1円も入ってこない。この「紙の上の利益」が、今期の利益の大部分を占めている。
SBGの資産全体の構成を見ると、OpenAIとアームの2社で大半を占める。2社の株価が上がれば帳簿の数字は膨らみ、下がれば過去最高益はそのまましぼむ構造だ。
この帳簿上の好決算に対して、ある格付け会社は同じタイミングで「危険信号」を出していた。
10兆円が向かう先——OpenAIは年7.8兆円の赤字企業
SBGが10兆円を注ぎ込もうとしているOpenAIは、今年だけで約500億ドル(約7.8兆円)の赤字を出すとみられている。この数字はウォール・ストリート・ジャーナルなど複数の米メディアが報じたもので、OpenAIが大口投資家向けに示した財務見通しに基づくとされる。ChatGPTのようなAIを動かすには、膨大な数のコンピューターと大量の電力が必要だ。そのインフラ費用と、世界中から集めた研究者への人件費が、利用料などの収入をはるかに上回っている。稼ぐより使うお金のほうが圧倒的に多い——それがいまのOpenAIの実態だ。
集中投資に「ネガティブ」——格付け会社が示した懸念
企業や国の信用力を評価する大手格付け会社S&Pグローバル・レーティングが、SBGの決算とほぼ同じタイミングで動いた。SBGの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたのだ。
理由はシンプルだ。「簡単に売れない株に、借金をしながら巨額の投資を続けている」——この構図を危険視した。OpenAI株はいまのところ株式市場に上場していないため、いざというときに現金化しにくい。その資産に、SBGは借金を重ねながら投資を積み上げている。もしOpenAIの評価額が大きく下がれば、帳簿上の利益は消え、負債だけが残る。
SBGには「LTV」と呼ばれる財務の健全性を測る指標がある。保有する株の価値に対して、借金がどれくらいあるかを示す割合だ。2025年12月末時点のLTVは20.6%で、SBG自身が「25%未満を維持する」と宣言している警戒ラインは下回っている。数字の上ではまだ余裕がある。
だが、株価は動く。LTVの「余裕」は、保有株の値動き次第でいつでも縮まる。この後で触れるが、OpenAIに関する報道一本でSBG株が10%動いた日が実際にある。格付け会社が見ているのは現在の数字だけでなく、その不安定さだ。
SBGの資金計画——長期借入への切り替えで急返済リスクを下げる
SBGも手をこまねいているわけではない。すでに約6.2兆円規模の融資枠を確保し、追加出資に必要な資金を手当てしている。さらに、これまで短期で借りていた資金を長期の借入に切り替えることで、急な返済を迫られるリスクを下げる対応も進めている。
「LTVは安全圏にある。資金の準備も済んでいる」——SBGの立場はそこにある。対して格付け会社は「それでも、借金頼みの集中投資には構造的なリスクがある」と見る。この見解の対立は、今日の時点では決着していない。
答えが出るのは、おそらくOpenAIが株式市場に上場し、その株が実際に売買できるようになる日だ。
上場が来るまで、10兆円は紙の上のまま
IPOとは、株式市場に上場していない会社が初めて株を一般に売り出し、市場に参加することだ。上場すれば、それまで自由に売れなかった株が市場で取引できるようになる。SBGが持つOpenAI株も、上場が実現して初めて、保有者が売って現金に換えられる。
投資を始めてからの累積の含み益は約8兆円規模になる。これは今期の純利益(3兆1,727億円)とは別の数字だ——純利益は今年度9ヶ月分の増加額、8兆円は出資を始めてからの総積み上がり分。どちらも、まだ売っていない株の話である。OpenAIが上場しない限り、この8兆円は現金として手元には届かない。
市場では2026年内のIPO観測が広がっており、OpenAIが目指す企業価値は1兆ドル(約155兆円)とも報じられている。この数字はブルームバーグが2025年初頭に報じたもので、OpenAI経営陣が投資家に示した目標とされる。SBGが最終的に目指す持分13%をこの評価額に当てはめれば、単純計算で約20兆円規模の資産になる。10兆円の投資が2倍になって戻ってくる計算だ。
だが、その日が確実に来るかどうかは分からない。OpenAI内部では上場の時期と条件をめぐって経営陣の意見が割れているとの報道が出ている。4月28日には、ウォール・ストリート・ジャーナルが「OpenAIが法人向けサービスの契約件数など一部の事業目標を当初計画より下回っている」と報道した。その日だけで、SBGの株価は約10%下落した。10兆円を注いだ会社に関する情報ひとつで、SBGの市場評価がこれほど動く。
過去最高益と格付け引き下げが同時に起きた決算、1社への10兆円投資、上場がまだ確定していない投資先——孫正義が仕掛けた大きな賭けの答えは、OpenAIが株式市場に出る日まで出ない。
