Metaが2026年第1四半期(1〜3月期)の決算を発表した翌週、従業員8000人の削減が始まった。四半期として過去最高の業績を出した直後の人員整理——そして削減で浮いた資金は、AIへの設備投資に回された。前年比2倍、上限1450億ドル(約21兆円)。さらにMetaは、その投資の中核となる自社AIチップの4世代にわたるロードマップを公表した。
MetaがAI投資を前年比2倍に引き上げ、自社チップ計画を公開
設備投資1250億〜1450億ドル、前年の約2倍
Metaが2026年の設備投資見通しを上方修正した。当初示していた1150億〜1350億ドルから、1250億〜1450億ドルへ引き上げた。2025年の実績は722億ドルだったから、上限で比べれば2倍の規模になる。円換算で最大約21兆円——日本の国家予算の約2割に相当する金額だ。
MTIA——Meta専用の推論チップ
Metaが自前で作っているのが「MTIA(エムティアイエー)」と呼ばれるチップだ。FacebookやInstagramのAI処理——コンテンツの表示順を決めたり、広告を選んだりする計算——をこなすためだけに設計された専用の半導体である。
このチップは、すでに構想の段階を過ぎている。現時点で数十万個がFacebookとInstagramの裏側で稼働している。Metaが今回公表したのは、今後24ヶ月でこのMTIAを4世代にわたって連続投入するというロードマップだ。
NVIDIAへの支払いが高すぎる——なぜ自前チップを作るのか
1枚500万円のGPU(AIの計算処理を担う半導体)が何万枚も積み上がれば、その請求書がどれほどの額になるか。「なぜ自前で作るのか」への答えは、その数字を見れば出てくる。
年間100億ドルのコスト削減という目標
NVIDIAのGPUは、AIを動かすための実質的な「インフラ使用料」だ。FacebookやInstagramのAIは24時間止まらず動き続けるため、使えば使うほど請求額が積み上がる。しかもNVIDIAは世界のAI用チップ市場を事実上独占している。競合がほぼ存在しない市場では、価格交渉の余地も限られる。
月に何十億人が使うFacebook・Instagram・WhatsAppのAIを動かすMetaにとって、この問題は特に大きい。Metaが今回の自社チップ計画で掲げるコスト削減の目標は、年間100億ドル(約1.5兆円)だ。
汎用GPUより40%安い——専用設計の経済性
AIの処理には大きく2つの工程がある。「学習」はAIに知識を覚えさせる段階で、月に数回のまとまった処理だ。「推論」はその知識を実際に動かす段階——InstagramのおすすめやFacebookの広告選択など、毎秒何億回と発生する処理になる。
Metaが自社チップで置き換えたいのは「推論」の部分だ。処理の回数が学習とは桁違いに多く、コスト削減の効果が大きいためだ。専用設計のMTIAに切り替えることで、推論にかかる総コストを40〜44%削減できるとMetaは試算している。比較の基準はNVIDIAのH100世代GPU——あらゆる計算をこなせるよう汎用設計されたチップだ。MTIAはMetaのAI処理だけに特化しており、その分だけコストを絞れる。消費電力あたりの処理効率を高めることが専用設計の核心で、これが削減率の源泉になっている。
ただし、NVIDIAとの取引はなくならない。「学習」にはGPUの演算力が今も必要で、Metaは2026年にNVIDIAの次世代GPU「Vera Rubin」を数百万個単位で購入する契約を締結している。「推論は自前、学習はNVIDIA」——完全な決別ではなく、依存度を下げるという現実的な判断だ。
24ヶ月で4世代、6ヶ月サイクルという異常なスピード
通常、チップの新世代開発には1〜2年かかる。Metaが目指しているのは約6ヶ月サイクル——業界標準の3〜4倍のペースだ。その宣言を支える仕組みが、すでに動き始めている。
専門企業への外注と「レゴ式」設計
このペースを実現する鍵は2つある。
一つは、半導体設計の専門企業Broadcom(ブロードコム)との共同開発体制だ。Metaはこのパートナーに過去1年間で23億ドル(約3400億円)を支払っており、2029年まで供給契約も確保している。実際の製造は台湾のTSMC(世界最大の半導体受託製造企業)が担う。設計から量産まで、世界最高水準の専門企業に任せることで、Metaは一人で抱えるリスクを避けながらスピードを保っている。
もう一つがモジュラー設計という手法だ。レゴのように「交換可能なブロックの組み合わせ」としてチップを設計することで、前の世代の土台を活かしながら必要な箇所だけ更新できる。一から作り直す必要がなく、これが半導体業界の常識を超えた6ヶ月サイクルを可能にしている。
第1世代はすでに稼働している
4世代の最初は、すでにFacebookとInstagramで動いている——コンテンツの表示順や広告の選択を毎秒こなしているチップがそれだ。次世代は2026年後半に投入予定だ。
「計画します」ではなく「動かしています」——その違いが、このロードマップの信頼性を裏付けている。
8000人削減の資金がチップへ流れた
6ヶ月サイクルで4世代を出すという計画の資金は、どこから来たのか。その答えは、決算発表の翌日に出てきた。
2026年5月、Metaは全従業員の約10%にあたる8000人の削減を発表した。タイミングが、この決断の本質を物語っている。四半期の純利益は268億ドル(約4兆円)——会社として過去最高の業績を出した、その翌日の話だ。業績が悪いから人を切るのではない。儲かっているうちに、会社の形を変えるということだ。
決算説明会でのザッカーバーグの言葉は明快だった。「AIへの投資を増やすなら、人件費を削るしかない」。感情の言葉はない。ただ、計算の結果だけがある。
この削減は、2022年から続く構造的な転換の一部だ。Metaが2022年以降に削減した従業員の数は、累計で約3万3000人にのぼる。当時「効率化」と呼ばれていたものが、今では明確な方向性を持っている——「人が動かす会社」から「AIが動かす会社」への移行だ。毎秒何億もの処理をこなすFacebook・Instagram・WhatsAppのAIが、人間の代わりに仕事を引き受ける体制へと置き換えていく。
この選択が正しかったかどうかは、まだ誰にもわからない。1300億ドルの設備投資を積み上げてなお、NVIDIAとの関係は完全には断ち切れていない。6ヶ月ごとに新世代チップを出せるかどうか、試されるのはこれからだ。ただ一つはっきりしているのは、Metaがすでに退路を塞いでいるということだ——3万3000人分の判断は、もう取り消せない。
