OpenAIとコンサルティング大手PwCが、2026年5月5日に協業の拡大を発表した。会社の経理や税務といった基幹業務をAIで自動化し、大企業に展開する——その仕組みをOpenAIは自社の財務部門で先に試し、結果を出してから売りに来た。
OpenAIとPwCが協業拡大を発表
両社の協業関係はこれまでも続いていたが、今回は性質が変わった。PwCの社員向けにAIツールを使わせる支援から、PwCが顧客企業にOpenAIの技術を用いた財務業務の自動化を提供する構図へ移行する。PwCはOpenAIの技術を企業に販売する初の「公式再販パートナー」——仲介役として顧客に売る立場——として、大企業の財務部門に売り込む役割を担う。
今回の協業で展開される主な製品は2つだ。「ChatGPT Enterprise」は、企業向けに機能を強化したバージョンで、社内情報と組み合わせて使えるよう設計されている。「Codex」は、財務処理に使うソフトウェアそのものをAIが自ら書いて動かすツールだ。PwCはこのCodexを活用し、顧客企業の業務に合わせたカスタムツールを構築・提供する。人手でシステムを組む時間とコストを大幅に省けるため、財務の自動化を企業へ展開する上での核心的な役割を担う。再販契約の対象企業数や展開タイムライン、収益分配の詳細は現時点では公開されていない。
対象は財務の基幹業務全域
今回の協業が対象とするのは、予算の管理、税務申告、契約書の処理といった、CFO(最高財務責任者——会社のお金まわりを統括する役職)が管轄する業務の全域だ。
PwCが2025年5月に発表した財務リーダー向け調査(対象は複数国の大企業CFO・財務幹部、回答者数は公表時点で非開示)では、88%が今後12ヶ月でAI関連の予算を増やす計画と回答している。財務部門のAI導入率は2023年の17%から現在は56%まで急増したが、日常業務の流れに実際に組み込めているのは依然17%にとどまる。「導入した」と「使いこなしている」は、まだ別の話だ。
AIが代わりにやること
今回展開する技術の軸は「AIエージェント」と呼ばれるものだ。指示を一件ずつ出さなくても、人間の確認を挟みながら自分で判断して次の作業へ進む——そういう動き方をする。繰り返し作業の大半をAIが処理し、担当者が判断を求められるのは問題がある場面だけになる。
売り込む前に自分が使い、数字を出した。それが今回の発表を、単なる新機能の案内と区別する点だ。
自社が「実験台」になった成果
OpenAIが「カスタマー・ゼロ」と呼ぶのは、外部に売り出す前に最初の顧客として自社で使うという方針だ。その実験場に選んだのが、自社の財務・法務チームだった。
契約処理件数が同人数で5倍に
担当チームの規模は変えていない。それで処理できる契約書の件数が5倍になった。人を増やさずに仕事量を増やした、という事実だ。
資金調達の場面では、別の形でAIが動いた。投資家から届いた200件以上の問い合わせに対応したのは、「IR-GPT」と名付けた専用のAIだ。IR(Investor Relations——投資家向けの広報・対応業務)の窓口として機能し、人間の担当者が一件ずつ回答していた作業を代行した。契約書の処理だけでなく、投資家とのやりとりという異なる業務でも機能した。財務の一部だけでなく、あちこちで実際に動いている。
PwCも自社で10万人が使う
PwCも、外から技術を買うだけでなく、自社の業務に合わせたツールを独自に開発してきた。ChatGPT Enterpriseを10万人超の社員に展開し、社内で3,000以上の活用場面を特定。税務申告書の確認作業や、報告書を自動でまとめるダッシュボードは、現場の実務から生み出されたものだ。今回PwCが顧客企業向けにカスタムツールを構築する役割を担うのは、この社内実績の延長線上にある。
こうした実績を踏まえ、OpenAIのCFOサラ・フリアール氏はAIの役割をこう語っている。「仕事を速くするためではなく、先を読むためのものだ」。処理能力の向上だけで終わる話ではない——CFOたちが今問われているのは、その先だ。
CFOの仕事は何が変わるか
財務AIの導入率は56%まで急増した。しかし日常業務に実際に組み込めているのはまだ17%にとどまる。処理をAIに任せた先で、財務を担う人間は何をするのか——その問いに、少しずつ答えが出始めている。
「速くする」から「先を読む」へ
書類処理の速度を上げることが目的ではなく、過去のデータを読んで次の経営判断を下すことに価値を置く——フリアール氏の言葉が示す発想の転換だ。処理を担っていた人間は、AIが出した結果を確認し、数字の根拠が妥当かを判断する役割へ移る。作業者から監督者への移行が、財務の現場で起きている。ただし導入した会社の多くは、まだその途上にある。ツールを手にした段階と、日常業務の流れに組み込んだ段階の間には、まだ距離がある。
AIのコスト管理も新たな職務に
AIは使えば使うほどコストが発生する——この側面は見落とされやすい。
契約書1件を照合するたびに、クラウド上でAIが稼働し、その分の費用が積み上がる。従来の人件費とは異なる構造のコストで、「どの業務にAIを使い、どこは人間が担うか」という判断が、財務への負担に直結する。AI自体のコストを管理し、投資の配分を決める——それが財務リーダーの新しい職務として浮上している。OpenAIが自社で先行して実証し、PwCが企業に展開するという今回の構図は、その判断を迫られる場面が財務部門に近づいてきたことを意味する。
