受付の電話が鳴る。でも目の前には会計待ちの患者さんがいる。保留ボタンを押して戻ったら、また別の電話が鳴っている——この繰り返しに、心当たりはないでしょうか。
この記事では、AI電話予約を実際に導入したクリニックの事例をもとに、電話がどれだけ減ったのか、費用はいくらかかるのか、そして導入で失敗しないために何を押さえるべきかを、具体的な数字でお伝えします。ひとつ先に整理しておくと、AI電話予約は「電話をすべてなくす」仕組みではありません。定型的な8割の電話をAIに任せて、スタッフが目の前の患者さんに集中できる体制を作る——それが現実的なゴールです。
- 目指すのは「電話ゼロ」ではなく「8割をAIに、2割に集中」 ── 定型電話はAIが処理。
- 急患・高齢者・個人情報の不安は設計で解決できる ── 緊急は「1番でスタッフ転送」
- 費用は月3〜5万円。成否を分けるのは電子カルテの“自動連携” ── 月300件以上で効果が明確。
AI電話予約を入れたクリニック、電話で80%負担減!
AI電話サービスを提供するBell AI Callの調査によると、約86.3%のクリニックが電話対応業務を「大きな負担」と感じていると報告されています。
最近増えているAI電話予約は、従来の自動音声案内——「予約は1番、変更は2番を押してください」と番号で進むあの仕組み——とは根本的に違い、「来週の水曜に変更したいんですが」といった自然な会話のやりとりにも対応できるようになっています。
もちろん、高齢患者さんや、緊急度の高い場合などは人に電話を転送するといった柔軟な対応も可能です。
- AIボイスボット(AI電話予約):話し言葉で会話できる。「来週の水曜に変えたい」にもそのまま対応
- 従来の自動音声案内:番号を押すだけ。選択肢にない要件は対応不可
AI電話予約を導入したクリニック5選——サービス・課題・成果を徹底比較
では「実際にどのクリニックが、どのサービスを入れて、何がどう変わったのか」を1院ずつ掘り下げます。導入前の課題と導入後の変化を具体的な数字で比較できるので、自院との共通点を探しながら読んでみてください。
①浜野胃腸科外科医院(千葉県)──AIさくらさん(Tifana AI)
浜野胃腸科外科医院は、千葉県にある胃腸科・外科のクリニックです。代表電話に診療時間の問い合わせや検査説明の電話が集中し、呼び出し音が鳴りっぱなしの状態が常態化していました。スタッフが対応しきれず電話を取りこぼすことも多く、「どんな電話を逃しているのか」すら把握できないブラックボックス状態だったといいます。
導入したのはTifana AIの「AIさくらさん」。結果は明確でした。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
| 電話が鳴りっぱなしで対応漏れが発生 | 受電率ほぼ100%に改善 |
| 取りこぼした電話の内容を把握できない | 通話内容がテキスト化され、問い合わせ傾向を可視化 |
| スタッフが同じ説明を何度も繰り返す | スタッフ1人あたり月約20時間の業務削減 |
数字以上に現場で大きかったのは、スタッフの声にあった「電話に出られない罪悪感がなくなった」という変化です。忙しい時間帯に電話が鳴っても出られない後ろめたさから解放されたことが、働きやすさに直結しています。さらに、通話内容がテキストで記録されるようになったことで「月曜の午前中は検査の問い合わせが多い」といった傾向が見え、Webサイトの改善にも活用されています。
②なのはな耳鼻咽喉科──NOMOCa-AI call
なのはな耳鼻咽喉科は、耳鼻咽喉科ならではの課題を抱えていました。花粉症シーズンになると予約や空き状況の問い合わせが殺到し、スタッフが電話対応に追われて窓口が回らなくなる。繁忙期だけ臨時スタッフを雇うにもコストと手間がかかります。
導入したのはクリニック特化型の「NOMOCa-AI call」(ジェネリックソリューション社)。導入後の変化は劇的でした。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
| 電話が鳴りっぱなしで対応漏れが発生 | 受電率ほぼ100%に改善 |
| 全ての電話を人が対応 | 電話対応の67%を自動化 |
| 電話や窓口、診療補助などの対応で行き来していた | 窓口や診療補助に対応に集中できるようになった |
耳鼻咽喉科は季節性が強い診療科です。花粉シーズンの2〜4月だけ電話が倍増するのに、その時期だけスタッフを増やすのは現実的ではありません。AI電話予約なら繁忙期も閑散期も同じ体制で回せるため、人件費の波を平準化できるのが大きなメリットです。
③品川ストリングスクリニック──NOMOCa-AI call
品川ストリングスクリニックでは、患者からの予約・確認・処方箋の問い合わせが非常に多く、スタッフが常に電話対応に追われている状態でした。「予約したい」「予約の確認をしたい」「処方箋だけ欲しい」——こうした電話が1日中鳴り続け、受付業務が中断されるたびに窓口の患者さんを待たせてしまう悪循環が起きていました。
同じくNOMOCa-AI callを導入した結果、定型的な問い合わせはAIが24時間自動で対応するようになりました。
- 月平均215件の問い合わせをAIが処理──スタッフが電話を取る回数が大幅に減少
- 月間約489分(約8時間)の業務効率化──浮いた時間で専門的なケアや緊急対応に集中
月8時間というと「大したことない」と思うかもしれません。しかし、これは受付スタッフの勤務時間でまるまる1日分に相当します。「電話が鳴らない受付」がどれだけ窓口業務に集中できるか——その差は数字以上に現場で実感されています。
④ハートフル歯科医院──NOMOCa-AI call
ハートフル歯科医院(医療法人社団 徹心会)は、歯科医院特有の課題を抱えていました。歯科は予約の変更・キャンセルが多い診療科です。治療が複数回にわたるため、患者さんの都合で予約を動かす電話が日常的に発生します。その対応に受付スタッフの時間が大きく取られ、診療の質にまで影響が出ていました。
NOMOCa-AI callを導入した結果、コスト面でも明確な成果が出ています。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
| 電話対応がスタッフの大きな負荷に | 電話対応を約47%削減 |
| 電話対応の人件費が経営を圧迫 | 年間100万円以上のコスト削減 |
理事長の下田孝義氏は「診療の質を上げることができた」とコメントしています。電話対応が半減したことで、スタッフが患者さん一人ひとりに向き合う時間が増え、結果として診療の質そのものが向上したということです。年間100万円以上のコスト削減という数字は、後のセクションで紹介する投資回収シミュレーションの試算ともぴったり合致します。
⑤湘南記念病院──Bell AI Call
湘南記念病院は、クリニックではなく病院規模の導入事例です。外来の電話が「つながらない」という患者からの不満が慢性的に発生しており、予約の取りこぼしが課題でした。電話が集中する時間帯にはスタッフ全員が受話器を持っている状態で、目の前の患者さんへの対応が後回しになることも少なくありませんでした。
2025年4月にBell AI Callを本格導入し、受付業務の効率化に成功しています。Bell AI Callが公表しているデータでは、導入院全体で月間電話の約80%をAIだけで完結させた実績があり、スタッフは診療中に電話で中断されることが減り「患者への対応が丁寧になった」と報告されています。
病院規模ならではのポイントとして、複数の診療科をまたぐ電話の振り分けもAIが担っています。「内科の予約」「整形外科の変更」といった電話を内容に応じて自動で振り分けるため、代表電話がボトルネックにならなくなったことが大きな変化です。
診療科も規模もバラバラですが、共通しているのは「定型的な電話をAIに渡した結果、スタッフが目の前の患者さんに集中できるようになった」という変化です。電話対応の削減率は47〜80%、業務時間の削減は月8〜20時間。自院の電話件数と照らし合わせて、どの事例が近いか比べてみてください。
「完全に電話をなくせるのか」——24時間対応の現実と限界
前のセクションで「月間電話の8割はAIで完結する」という数字をお伝えしました。でも、残りの2割は? 急患の電話は大丈夫? お年寄りは使える?——導入前に頭をよぎる3つの不安に、正直にお答えします。
急患の電話はAIに任せて大丈夫か
結論から言えば、AIが急患を勝手に判断することはありません。
今のAI電話予約サービスは、電話がつながった最初の段階で「緊急の方は1番を押してください」と自動音声メニューで案内するのが標準的な設計です。患者さん自身に「急ぎかどうか」を選んでもらい、緊急を選択したらそのままスタッフの電話に転送されます。
つまり、AIが症状を聞いて重症度を判断する——そんな危ない仕組みではありません。医療機関向けのAI電話サービスでは、緊急時の転送経路を事前に設定しておけば、24時間いつ電話が来ても適切な対応先につなげます。
AIの役割は「振り分けの入口に立つこと」であって、「医療判断をすること」ではない。ここを押さえておけば、不安はかなり小さくなるはずです。
高齢患者はAI電話で予約できるのか
正直に言えば、苦手な方はいます。
音声案内に沿って番号を押す操作自体はシンプルですが、「機械と話している」という感覚に抵抗を感じる高齢の患者さんは一定数います。これは事実です。
だからこそ、正解は「完全切り替え」ではなく並行運用です。
たとえば診療時間内は従来どおりスタッフが電話を受け、時間外や混雑時だけAIに任せる。あるいはAI対応中に「スタッフとお話しされたい方は0番を押してください」と逃げ道を用意する。こうすれば、AI電話が苦手な方も従来と同じ体験ができます。
「全員をAI対応に移行させる」を目標にする必要はありません。使える人から使ってもらうだけで、受付の負荷は確実に減ります。
患者の個人情報をAIに預けるリスク
患者さんの氏名、電話番号、予約内容——これらはAI電話サービスのサーバーに保存されます。
ここを不安に感じるのは当然です。ただ、確認すべきポイントは3つに絞れます。
- 通信が暗号化されているか:電話の音声データや予約情報が暗号化されて送受信されるか
- データの保管場所:国内サーバーで管理されているか、海外に持ち出されないか
- 第三者認証の有無:プライバシーマークやISMS(情報セキュリティの国際的な認証制度)を取得しているか
医療機関向けに展開しているサービスでは、これらの要件を標準で満たしている製品が増えています。契約前にこの3点を営業担当に聞いてみてください。明確に答えられないサービスは、候補から外して問題ありません。
AI電話予約の目的は「完全無人化」ではありません。定型的な8割の電話をAIに渡して、スタッフが目の前の患者さんに集中できる体制を作ること。それが現実的なゴールです。
費用と選び方——電カル連携・料金・投資回収
「現実的に使えそうだ」と分かったところで、次に気になるのは費用の話です。月々いくらかかるのか、元は取れるのか。
そしてもうひとつ、意外と見落とされがちなのが今使っている電子カルテとの相性です。ここを確認せずに契約すると、せっかくのAIが「半自動」で止まってしまいます。
電子カルテ・予約システムとの連携で失敗しないために
AI電話予約で最もやってはいけない失敗が、「電子カルテと繋がらないサービスを選んでしまう」ことです。
連携できていれば、AIが受けた予約はそのまま電子カルテの予約枠に自動で反映されます。スタッフは何もしなくていい。ところが連携していない場合、AIが受け付けた予約内容をスタッフが画面で確認し、手作業でカルテに入力し直す必要があります。これでは「電話を取る手間」が「入力し直す手間」に変わっただけです。
確認は次の3ステップで進めれば確実です。
まずは今使っているシステムの正式名称を控えておきます。「○○クリニック向けカルテ」程度の認識だと、後の問い合わせで話が噛み合いません。レセコン一体型かどうか、予約システムは別ベンダーかどうかもあわせてメモしておくと、確認がスムーズです。
AI電話予約サービスの営業担当に、STEP1で控えた製品名を伝えて「○○(製品名)と連携できますか」とそのまま質問します。Webサイトの「主要カルテ対応」という表記だけを鵜呑みにせず、自院の製品名で個別に確認するのがポイントです。
ここが最重要です。同じ「連携対応」でも中身は別物だからです。
- 自動連携:AIが受けた予約がリアルタイムでカルテの予約枠に反映される。スタッフの作業はゼロ。
- CSV取り込み:予約データを一度ファイルに書き出し、スタッフが手動でカルテに読み込ませる。手間が残る。
「CSV取り込み」は一見つながっているように見えますが、結局スタッフが手動でファイルを読み込ませる作業が残ります。予約が入るたびにカルテ側へ自動で反映される「自動連携」に対応しているかどうかが、選定の最大のポイントです。
ちなみに、AI電話予約は既存の電話番号をそのまま使えるサービスがほとんどです。「番号が変わると患者さんに案内し直す手間が……」という心配は不要です。電話番号はそのままで、裏側の仕組みだけ切り替えるイメージだと思ってください。
月額費用と投資回収シミュレーション
医療機関向けのAI電話予約サービスは複数あります。クリニックの予約管理に特化したNOMOCa-AI call(ジェネリックソリューション社)、Tifana AIの「AIさくらさん」、Bell AI Callなどが代表的です。それぞれ連携できる電子カルテや料金体系が異なるため、自院の環境に合うかどうかを個別に確認する必要があります。
実際のコスト削減実績を見ると、NOMOCa-AI callを導入したハートフル歯科医院では電話対応を約47%削減し、年間100万円以上のコスト削減を達成しています。同じくNOMOCa-AI callを導入した品川ストリングスクリニックでは、月平均215件の問い合わせをAIが処理し、月間約489分(約8時間)の業務効率化につながりました。
AI電話予約の費用相場は、月額3万〜5万円程度です。初期費用は0円のサービスもあれば、数十万円かかるものもあり、幅があります。
料金体系は大きく2タイプに分かれます。
| 料金タイプ | 仕組み | 向いているクリニック |
|---|---|---|
| 月額定額型 | 月○万円で受電し放題 | 電話が多い院(月200件以上が目安) |
| 従量課金型 | 1件あたり○円で課金 | 電話が少なめの院(月200件以下が目安) |
月に電話が300件を超えるクリニックなら、定額型のほうが1件あたりの単価は下がります。逆に月100件以下なら、従量課金で必要な分だけ払うほうがムダがありません。
では、元は取れるのか。ここは自院の数字で計算してみましょう。
受付スタッフが1本の電話対応に使う時間は、平均3〜5分です。仮に4分として、月300件の電話があるクリニックで試算します。
300件 × 4分 = 1,200分(20時間)
受付スタッフの時給を1,500円とすると、
20時間 × 1,500円 = 月3万円相当
つまり月3万円のAI電話サービスなら、電話対応の人件費とほぼトントンです。ここに「電話を取れない間に逃した患者さん」や「スタッフの残業代」を加えれば、プラスに転じます。
前のセクションで紹介した浜野胃腸科外科医院が月20時間の削減を実現したのも、まさにこの計算ラインです。
なお、初期費用についてはIT導入補助金を活用すれば1/2〜2/3に圧縮できる場合があります。年度ごとに条件が変わるため、最新の公募情報を契約前にチェックしてください。
月間の電話件数で選ぶ判断フロー
「結局、うちの規模で入れる意味はあるのか」——最後はここに行き着きます。
正直に言えば、月の電話が100件以下の小規模クリニックでは費用対効果が出にくい可能性があります。
100件 × 4分 = 400分、約6.7時間。時給1,500円で計算しても月1万円程度の削減にしかなりません。月額3万円のサービスを入れたら赤字です。
ただし「受付が1人しかいない」「電話に出られず患者さんが他院に流れている」という状況なら、数字に表れない損失(予約の取りこぼし)が発生しています。単純な時給計算だけでは判断できないケースもあります。
まず始めるべきことは、1か月間の電話件数を数えることです。受付に「正」の字でカウントしてもらうだけで構いません。そのうえで、以下を目安にしてください。
- 月300件以上:定額型のAI電話予約で明確にコスト削減効果が出ます。NOMOCa-AI callやAIさくらさんなど、複数サービスの見積もりを取って比較するのがおすすめです
- 月100〜300件:従量課金型で始めるのが現実的です。定型の電話(予約変更・確認)がどれだけ占めるかもチェックしましょう
- 月100件以下:費用対効果は厳しい場合が多いです。ただし受付1人体制や、電話の取りこぼしで患者さんが離れている実感があるなら検討の余地はあります
「いくらかかるか」と「元が取れるか」の見通しが立ったら、あとは始め方です。ただし、ここで手順を間違えると「入れたけど患者さんが使ってくれない」という事態になりかねません。
失敗を避けて、まず何から始めるか
費用の見通しが立ち「うちでも使えそうだ」と思ったら、次は始め方です。
ただし、ここで1つだけ絶対に避けてほしい失敗があります。
患者への周知を怠った院はこうなった
ある受付1人体制のクリニックの例ですが、患者さんに何も伝えずにいきなりAI電話へ切り替えた院では「電話が機械になった」「つながらない」というクレームが集中し、一時的に患者離れが起きています。
原因はシンプルで、患者さんが「何が変わったのか」を知らなかったこと。いつも通り電話したら突然AIが出てきて、戸惑って切ってしまう。それが「つながらない」という不満になるわけです。
周知は最低でも開始の2〜4週間前から、以下の3か所でやってください。
- 院内待合室のA4ポスター
- ホームページのお知らせ欄
- 診察券の裏面への印字(次回印刷分から)
告知文はこのまま使えます。
「〇月〇日より、ご予約の確認・変更のお電話はAI自動応答でお受けします。緊急の場合は1番を押してスタッフにおつなぎします」
たったこれだけですが、あるのとないのとでは患者さんの反応がまるで違います。導入病院での周知事例でも、事前告知を丁寧に行った院ほどクレームが少なかったと報告されています。
明日からできる3ステップ
「よし、やろう」と思ったら、いきなりサービスを契約する前にこの3つだけ済ませてください。
受付スタッフに、電話を受けたら「予約」「変更」「確認」「その他」のどれかにチェックを入れてもらうだけです。紙1枚で済みます。これで定型電話が何割あるか分かります。
前のセクションの計算式を使ってください。定型件数 × 4分 × 時給。月額費用と比べて元が取れそうか、数字で判断できます。
「自動連携」できるサービスを選ばないと手間が残ります。製品ごとの対応状況は各社のWebサイトで公開されているので、問い合わせ前に確認できます。
そして最も大事なことを1つ。初日から全電話をAIに任せないでください。
まずは「予約確認・変更」の電話だけをAIに渡す。それ以外は従来どおりスタッフが受ける。この段階的な始め方が、患者さんにもスタッフにも負担をかけず、いちばん失敗しにくいやり方です。



