Notion Labs
「メモアプリから、企業のオペレーティングシステムへ。」
- 🧠 SaaS / AIワークスペース
- 📍 サンフランシスコ
- 📈 Pre-IPO
ユーザー数
1億人
ARR
900億円
企業価値
1.7兆円
Notion Labsとは?
AI関連の年間収益3億ドル(約450億円)
Notionの年間経常収益(1年間を通じて安定的に入ってくる売上)は約900億円。その半分にあたる450億円が、AI関連プロダクトから生まれています。
メモアプリだったはずの会社が、いつの間にAI企業になっていた——なぜNotionだけがAIを収益に変えられたのか。その変貌の過程を追います。
Timeline
沿革
「誰もが自分だけのツールを組み立てられる世界」を掲げてスタート。しかし初期プロダクトは技術的に難航し、チームは一度ほぼ解散に追い込まれます。
サンフランシスコのオフィスを畳み、生活コストの安い京都に拠点を移して再出発。日本の静かな環境の中で、後のNotionの原型となるアーキテクチャが生まれました。
メモ・タスク管理・データベースを1つのアプリに統合した全面刷新版をリリース。Product Huntで話題になり、口コミだけでユーザーが急増します。
Coatue Managementがリード。広告費をほとんど使わず「口コミだけで100億ドル企業」という異例のユニコーンが誕生しました。
ChatGPTブームの中、多くの競合がAI機能を無料で配る戦略をとったのに対し、Notionは月額課金の有料機能として投入。この判断がのちにARRの半分をAIが占める収益構造の起点になります。
プライバシー技術とエンジニアチームの獲得が狙い。同年にはNotion Mailの開発が本格化し、「Notionだけで仕事が完結する」構想が加速しました。
従業員向けの株式売却を実施。2021年の100億ドルから着実に評価額を伸ばし、Forbes報道によればARRは6億ドルに到達しています。
About
Notionを一言で
メモ帳から始まった、仕事のすべてを1つにまとめるデジタル作業台
- ドキュメント・Wiki・プロジェクト管理・メール・カレンダー・Webサイト構築を1つのアプリに統合したワークスペース企業
- 個人の日記から Fortune 500の半数以上まで、規模を問わず使える守備範囲の広さ
- ユーザーの80%が米国外——コミュニティ主導で30カ国以上に浸透
- AI機能だけでARRの半分を稼ぐ「静かなAI企業」
これほど守備範囲が広いのに、なぜNotionは「全部入りツール」として成立しているのか。その答えは、業界の常識をことごとく逆張りした戦略にあります。
VS
何が違うのか?
業界の常識 vs Notion
1つのツールにメール・Wiki・PMを統合した
タスク管理はAsana、WikiはConfluence、メモはEvernoteと用途別にツールを揃える。
ドキュメント・Wiki・プロジェクト管理・メール・カレンダーを1つのアプリに全部入れた。
AIを無料バラマキせず有料アドオンで売った
ChatGPTブーム以降、競合はAI機能を無料で配ってユーザーを囲い込む。
あえて月額課金の有料アドオンにして、ARRの半分をAIで稼ぐ収益構造を作った。
800人のアンバサダーで海外市場を攻めた
海外展開は現地法人を作り、広告予算を投じて市場を開拓する。
30カ国以上で800人のアンバサダーに布教を任せ、ユーザーの80%が米国外という構成を実現した。
常識の逆を選んで、全部当てた。
この3つの「逆張り」を実行できた背景には、創業チームの思想と経歴があります——次のセクションで経営陣を見ていきます。
この3つの「逆張り」を実行できた背景には、創業チームの思想と経歴があります——次のセクションで経営陣を見ていきます。
Leadership
経営陣
デザイナー気質の創業者と、グロースのプロが組んだチーム
Ivan Zhao
イヴァン・ジャオ
デザイナーがコードも書く創業者
中国・ウイグル出身 / ブリティッシュコロンビア大学で認知科学 / Instaread創業 / Notion Labs創業
中国で育ち、カナダに渡って認知科学(人間の思考や知覚を研究する学問)を学んだ人物です。デザインとプログラミングの両方を自分でこなせるのが最大の特徴で、Notionの「シンプルだけど奥が深い」UIへの執着は、このバックグラウンドから来ています。資金が尽きかけた2016年、チームをほぼ解散してSimon Lastと2人きりで京都に渡り、静かな環境の中でNotionの原型を作り上げました。
Simon Last
サイモン・ラスト
Notionの技術基盤を設計した静かな共同創業者
イギリス出身 / エンジニア / Notion Labs共同創業
Ivan Zhaoとともに創業し、Notionの初期コードベースとブロックベースのデータモデルを設計した人物です。現在はメディアに登場する機会がほとんどありませんが、ドキュメントもデータベースもプロジェクト管理も「すべてブロックの組み合わせ」で動くという技術的な礎を築きました。
Akshay Kothari
アクシャイ・コタリ
LinkedInインド市場を開拓したグロースのプロ
LinkedIn VP of Product / Pulse創業・買収でLinkedIn入り / スタンフォードMBA
ニュースリーダーアプリ「Pulse」を創業し、LinkedInに買収されたあとはVP of Productとしてインド市場の開拓を主導した人物です。プロダクトドリブンだったNotionに、エンタープライズ営業・収益化・組織スケーリングといったビジネスの骨格を持ち込みました。ユーザーの80%が米国外というグローバル展開も、Kothariの国際市場での経験が大きく効いています。
Aditya Agarwal
アディティヤ・アガルワル
元Dropbox CTOが財務トップに
元Dropbox CTO / 元Facebook初期エンジニア / 2024年Notion参画
Dropboxで技術トップを務めた人物が、2024年にNotionのCFO(最高財務責任者)に就任しました。テクノロジー企業の経営を深く理解する人材が財務責任者に就いたことで、IPO(株式上場)への準備が進んでいるのではないかと業界では注目されています。
経歴
| 学歴 | ブリティッシュコロンビア大学・認知科学 |
|---|---|
| 前職 | Instaread(写真共有アプリ)創業 |
| 現職 | Notion Labs CEO / 共同創業者 |
注目ポイント
「誰もが自分のツールを組み立てられるソフトウェア」という構想を、資金難の中でも捨てなかった人です。京都時代に設計したブロックベースのアーキテクチャが、現在のNotionの全プロダクトの土台になっています。デザイナーでありエンジニアでもあるからこそ、「見た目の美しさ」と「技術的な柔軟性」を両立できた——Notionのプロダクト思想そのものを体現する存在です。
経歴
| 学歴 | 非公開 |
|---|---|
| 前職 | エンジニアとしてのキャリア |
| 現職 | Notion Labs 共同創業者 |
注目ポイント
Notionが「メモアプリ」から「Wiki」「プロジェクト管理」「メール」「カレンダー」と次々に領域を広げられるのは、Simon Lastが初期に設計したブロックベースのアーキテクチャがあるからです。1つの基盤で何でも作れる柔軟な構造を最初から仕込んでいた——その先見性がNotionの拡張戦略を支えています。
経歴
| 学歴 | スタンフォード大学MBA |
|---|---|
| 前職 | LinkedIn VP of Product / Pulse創業者 |
| 現職 | Notion Labs COO |
注目ポイント
LinkedInでインドという巨大市場をゼロから立ち上げた経験は、Notionの「アンバサダー800人で30カ国以上に浸透」というコミュニティ主導の海外展開と相性が良いです。デザイナー気質の創業者2人だけでは実現できなかったビジネスサイドの成長を、Kothariが担っています。
経歴
| 学歴 | 非公開 |
|---|---|
| 前職 | Dropbox CTO / Facebook初期エンジニア |
| 現職 | Notion Labs CFO |
注目ポイント
企業価値110億ドル(約1.7兆円)に達したNotionが次に踏む大きなステップとして、上場の可能性がささやかれています。テック企業の内側を知り尽くしたAgarwalのCFO就任は、その布石と見る向きが多いです。
ひとこと補足
Notion 3.0のAIエージェントとは何か
「聞いたら答えるAI」と「自分で動くAI」は、まったく別モノです
これまでのAIは、基本的に「聞かれたら答える」存在でした。「この文章を要約して」と頼めば要約してくれる。でも、こちらが指示を出さない限り、AIは何もしません。優秀だけど受け身なアシスタントです。
Notion 3.0で登場した「AIエージェント」は、ここが根本的に違います。「先週の会議内容をまとめて、タスクを作って、担当者に通知しておいて」とお願いすると、AIが自分でワークスペース内のメモやカレンダーを探し回り、議事録をまとめ、やるべきことをリストアップし、担当者に知らせる——この一連の流れを、人間が途中で手を動かさなくても勝手にやってくれます。最大20分間、複数のステップを自分で考えながら実行でき、ワークスペース全体の情報を「記憶」として使います。つまり「自分で段取りして動く部下」がチームに1人増えるイメージです。
AI人材マッチングのスタートアップ・Braintrustでは、このエージェントに進捗の集約・レポート作成・データ整理といった管理業務を任せた結果、CEOを含むチーム全員が毎日数時間を取り戻しています。1日8時間の仕事時間のうち、かなりの割合を雑務が占めていたことになります。エージェントはその雑務を丸ごと引き受けてくれるわけです。
Product
主要プロダクト
1つのワークスペースで仕事を完結させるための3つの武器
社内のことなら何でも答えるAI——しかも自分で動く
Notion AI
ワークスペース全体を理解するAIアシスタント
Notion AIは単なるチャットボットではありません。ワークスペースに蓄積されたドキュメント・Wiki・プロジェクトデータを横断的に検索・要約・翻訳し、チーム全体の「知識の引き出し」として機能します。Notion 3.0からはAIエージェントとして自律的にタスクをこなせるようになり、医療AI企業のHeidiはこれを活用して毎月260時間以上の業務時間を削減しています。Forbes報道によればARRの50%をこのAI関連機能が稼いでおり、Notionの収益構造を根本から変えた大黒柱です。
メールもNotionで完結——ツール切り替えゼロの世界
Notion Mail
メールをNotionの中に取り込む新発想
2024年に買収した暗号化メールサービスSkiffの技術とチームをベースに構築されたメール機能です。受信メールをNotionのデータベースビューで管理でき、AIが自動で分類・スケジューリング・下書き作成まで行います。「メールクライアントを作った」というより「メールという情報をNotionのワークスペースに統合した」と言う方が正確で、仕事の文脈がバラバラのツールに散らばる問題を根っこから解決しようとしています。
コード不要、数分でサイト公開
Notion Sites
Notionのページがそのままウェブサイトになる
Notionで書いたドキュメントを、そのまま外部向けのWebサイトとして公開できる機能です。SEO設定やGoogleアナリティクス連携、カスタムドメインにも対応しており、ヘルプセンターや採用ページだけでなく企業のメインサイトとして使うケースも増えています。「更新したければNotionのページを編集するだけ」というシンプルさが最大の武器で、Web制作の専門知識がないチームでも自分たちでサイトを運用できます。
ひとこと補足
Skiff買収とNotion Mailの裏側
メモアプリの会社が、なぜメールサービスを買収したのか?
2024年、Notionは「Skiff」というサービスを買収しました。Skiffはエンドツーエンド暗号化(送信者と受信者以外は中身を読めない仕組み)によるプライバシー保護を最大の特徴とするコラボレーションツールです。Notionが欲しかったのはメール機能そのものだけではなく、暗号化技術を熟知した開発チームごと取り込むことで、ゼロからメールアプリを作るより圧倒的に速くNotion Mailを立ち上げられた点にあります。自前で作るか、買うか——Notionは「買って統合する」を選びました。
このプライバシーへのこだわりは、単なる技術的な話にとどまりません。ヨーロッパではGDPR(個人データの保護を厳しく定めた法律)があり、ツール選定で「データの安全性」が最優先事項になります。ユーザーの80%が米国外にいるNotionにとって、暗号化技術の獲得は欧州市場での競争力を一段引き上げる武器です。買収1つで、技術・人材・市場競争力をまとめて手に入れた——Notionの「全部取り込む」戦略を象徴する一手です。
Partnerships
パートナーシップと資本関係
シリコンバレーのトップVCが揃い踏み——IPO前夜の布陣
Notionの投資家リストを見ると、「この会社は本気で上場を狙っている」という空気が伝わってきます。
初期から支えてきたVCに加え、2025年にはシンガポール政府系ファンドまで参加。さらにAI技術の根幹を支えるパートナーも揃っています。
シリコンバレーで最も影響力のあるVCの一つ。2025年の二次株式売却にも追加参加しており、上場前の「信認投票」として機能しています。
Notionの成長初期から資金を入れてきた欧州系VC。Figma、Discordなどクリエイター向けツールへの投資実績が豊富です。
2021年のシリーズCで2.75億ドルの調達をリードし、Notionの企業価値を100億ドルに押し上げた立役者です。
国家の資産を運用する政府系ファンドが参加したことで、Notionへの信頼度が機関投資家レベルで裏付けられました。
Notion AIの頭脳を提供するモデル開発元。ClaudeとGPTという二大モデルを併用できる柔軟な設計が、Notionの技術的な強みを支えています。
テンダーオファーが示す「上場前夜」のシグナル
インサイト
2025年末、Notionは従業員向けの株式売却(テンダーオファー)を実施し、企業価値は110億ドル(約1.7兆円)と評価されました。テンダーオファーとは、上場前の企業が従業員や初期投資家に「今の段階で株を現金化できる機会」を提供する仕組みで、IPO直前に行うのが慣行です。この売却にSequoiaとGICという重量級が追加参加した点、そして元Dropbox CTOのAditya AgarwalがCFOとして2024年に就任している点——投資家構成・テンダーオファー・CFO人事という3つのピースが揃った今、「いつ上場するか」が焦点になりつつあります。
数字の裏付けがある外部評価——メディアもアナリストも「AI収益の異常さ」に注目している
Voices
業界の声
Notionは2025年末時点でARR(年間経常収益)6億ドルに到達した。そのうち50%がAI製品からの収益であり、AIが同社の成長を加速させている。従業員向け株式売却(テンダーオファー)における企業価値評価額は110億ドルに上昇した。
出典: Forbes – Notion Kicks Off Employee Share Sale at $11 Billion Valuation
NotionはARR6億ドルで110億ドルの評価を受けている。これは収益の約18倍という高い倍率だが、AI収益の急成長がその正当性を裏付けている。バリュエーションに見合った成長を実現しつつある稀有な事例だ。
出典: SaaStr – Notion at $11 Billion: The Art of Growing Into Your Valuation
外部の評価は上々です。ただし、光が強いほど影も濃い。成長ストーリーの裏に隠れた死角を直視します。
⚠ Risk Assessment
光と影——冷静に見るリスク
急成長の裏側にある4つの死角——最大の脅威は「巨人が同じ方向に走ってくること」
Microsoft・Googleの統合攻勢
Microsoft 365 CopilotとGoogle Workspace+Geminiが、Notionと同じ「AI×ワークスペース統合」の方向に全力で突っ込んできています。問題は、これらが既存のOffice契約やGoogle契約に「込み」で入ってくることです。すでに全社員がMicrosoft 365を使っている企業の情シス担当者が、わざわざ別途Notionを契約する理由を稟議書に書くのはハードルが高い。Notionの武器は「1つのアプリにすべてを統合するシンプルさ」ですが、巨人たちが同じ統合路線を走り始めた以上、差別化の窓は確実に狭まっています。
AI収益への依存——価格競争が直撃するリスク
ARRの50%がAI関連プロダクトから生まれているという数字は、成長力の証拠であると同時に、集中リスクでもあります。Notion AIの頭脳はAnthropicのClaudeやOpenAIのGPTといった外部モデルに依存しており、API料金の値上げはそのままコスト構造に跳ね返ります。逆にAI市場全体で価格競争が激化し、競合が「AI機能は無料」と打ち出してきた場合、Notionの有料AIアドオン戦略が揺らぐ可能性もあります。
有料ユーザーはまだ全体の4%
SaaStr報道によれば、Notionのユーザー数は1億人を突破し、有料顧客は400万人超。単純計算で有料化率は約4%です。裏を返せば「96%の人はお金を払うほどの価値を感じていない」とも読めます。個人のメモ帳として無料で使っている層を、チーム利用やAI有料アドオンに引き上げられるかどうかが、今後の成長を左右する分岐点です。
未上場ゆえの財務不透明性
Notionは企業価値110億ドル(約1.7兆円)と評価されていますが、上場企業ではないため、詳細な財務データは公開されていません。ARR6億ドルという数字もForbes報道がソースであり、利益率やキャッシュフローといった経営の健全性を外部から検証する手段が限られます。
巨人との競合が最大の脅威——だが「統合」という武器がある限り勝負になる
インサイト
4つのリスクの中で最も深刻なのは、MicrosoftとGoogleの統合攻勢です。ただし、Notionにはブロックベースのアーキテクチャという独自の強みがあります。ドキュメント・Wiki・プロジェクト管理・メール・カレンダー・AIエージェントが1つの基盤で動く統合体験は、MicrosoftやGoogleが複数の既存製品をつぎはぎで連携させるアプローチとは根本的に異なります。「全部入りだけど中身はバラバラ」と「全部入りで中身もつながっている」——この差がNotionの生命線であり、巨人たちが簡単には真似できない部分です。
What’s Next
今後の展望
「メモアプリの会社」が次に狙うのは、仕事そのものを動かすプラットフォームの座
リスクセクションで見たとおり、MicrosoftやGoogleという巨人が同じ方向に走ってきています。では、Notionはどうやって戦うのか。答えは4つの方向に見えています。
AIエージェントが「もう1人のチームメンバー」になる
Notion 3.0で登場したAIエージェントは、まだ序章にすぎません。2026年3月に発表された「カスタムAIスキル」では、企業ごとに専用のAIアシスタントを構築できるようになりました。たとえば営業チームなら「商談メモを読み込んで、CRMのステータスを自動更新して、次のアクションを提案する」エージェントを作れます。BraintrustのようにCEOの業務時間を毎日数時間削減した事例が既に出ていますが、カスタムスキルが広がれば「Notionの中にAIチームメンバーが何人もいる」状態が現実になります。ARRの50%がAI関連という数字は、この方向にユーザーがお金を払う意思があることの証拠です。エージェントの拡充が成功すれば、Notionは「仕事のOS」というポジションに最も近いプレイヤーになります。
Mail・Sites・Calendar・DBで「Notionだけで仕事が完結する」状態へ
Notion Mail、Notion Sites、Notion Calendar——ここ2年で矢継ぎ早にリリースされたプロダクトには、明確な共通点があります。「わざわざ別のツールを開かなくていい」という体験を、1つずつ積み上げていることです。メールを確認するためにGmailを開き、スケジュールを見るためにGoogleカレンダーに移り、議事録を書くためにNotionに戻る——この「ツール間の移動」をゼロにするのが中期戦略の核心です。フルスタック化が進むほどユーザーが離れにくくなり、ワークスペースに蓄積されるデータが増えるほどAIエージェントの精度も上がる。プロダクトとAIが相互に強化し合う好循環を狙っています。
Fortune 500のさらなる深耕——大企業が「乗り換えやすい」環境づくり
Forbes報道によれば、Fortune 500企業の50%以上がすでにNotionを導入しています。次のステップは、この企業群での利用をさらに深く、広くすることです。HIPAA準拠(医療データの取り扱い基準を満たすこと)や、Monday.comからのデータ移行ツール、Webhook連携など、大企業が「うちでも使えるな」と判断するための障壁を1つずつ取り除いています。エンタープライズ向けの有料プランは単価が高いため、ここでの深耕はARR成長に直結します。
2026〜2027年のIPO観測——テンダーオファーは「上場前夜」のサイン
2025年末のテンダーオファー(企業価値110億ドル)、元Dropbox CTOであるAditya AgarwalのCFO就任、SequoiaやGICといった重量級投資家の追加参加——これらはすべて、IPOへの準備ステップと見られています。業界では2026年後半から2027年にかけての上場が有力視されており、ARR6億ドル・企業価値110億ドルという規模感がどう市場に評価されるかが注目されます。
「SaaSの上場」ではなく「AIワークスペースという新カテゴリの上場」
インサイト
NotionのIPOが実現した場合、投資家は興味深いジレンマに直面します。この会社を「SaaS企業」として見るか、「AI企業」として見るかで、株価の物差しがまったく変わるからです。従来のSaaS企業なら売上の10〜20倍が相場ですが、AI企業ならそれ以上の評価倍率がつくことも珍しくありません。ARRの50%がAIという構造は、まさにその境界線上にあります。AIエージェントが「仕事のOS」として定着すれば新カテゴリの代表銘柄になり得る。逆に期待ほど使われなければ、高機能なメモアプリとして評価される。上場というイベントが、Notionの正体を市場が値付けする瞬間になります。
Notionはメモアプリから出発し、ARRの半分をAIが稼ぐプラットフォームへと変貌しました。その証拠が、ARR6億ドルの50%がAI関連収益という数字です。1億ユーザー・Fortune 500の過半数導入・企業価値110億ドルと、規模感はIPO前夜に達しています。
リスクはMicrosoftとGoogleの猛追、AI収益への集中、そして1億人中400万人(4%)しか有料化していないという現実です。これらは無視できない死角ですが、ブロックベースの統合アーキテクチャという武器がある限り、巨人との戦いは成立します。
Notionの未来を決めるのは、AIエージェントが「便利な機能」で終わるか「なくてはならない部下」になれるかです。「仕事のOS」への変身が完成するかどうか——その答えは、2026〜2027年のIPOとともに明らかになるでしょう。
Takeaway
この記事のポイント
- Forbes報道によればARR6億ドルの約半分がAI関連収益——競合が無料で配る中、有料アドオンを貫いた判断が生んだ異常な数字
- SaaStr報道で1億ユーザー・有料顧客400万人超・企業価値110億ドル——元Dropbox CTOのCFO就任やテンダーオファー実施など、IPO前夜のシグナルが揃いつつある
- 資金難で京都に渡った2人のスタートアップが、10年で企業価値1.7兆円に化けた
- 最大のリスクはMicrosoft 365 CopilotとGoogle Workspace+Geminiが同じ「AI×統合」路線で追いかけてきていること
- AIエージェントが「聞いたら答えるアシスタント」から「自分で段取りして動く部下」に進化できるかが、Notionの未来を決める分岐点
— 読了お疲れさまでした。この企業の最新動向は、AI産業通信で随時更新します。
編集部コラム
「全部入り」は美学なのか、必然なのか
Ivan Zhaoが創業時から掲げてきた「ソフトウェアのレゴブロック」という思想は美しいです。好きなブロックを組み合わせて、自分だけのツールを作る。でも今のNotionを見ると、メモ・Wiki・プロジェクト管理・メール・カレンダー・AIエージェントまで取り込んだ巨大なスイスアーミーナイフになっています。それでもNotionが選ばれ続ける理由はシンプルで、仕事の情報が1つの場所にある利便性が圧倒的だからです。ツールを5つ渡り歩く面倒さを一度でも体験した人は、もう戻れない。これは良く言えば統合の力、悪く言えばロックインです。
AIエージェントが本当に使い物になるなら、このロックインはさらに深くなります。エージェントはワークスペースに蓄積されたデータを「記憶」として使うため、情報をNotionに入れれば入れるほどAIは賢くなり、AIが賢くなるほどNotionから離れられなくなる。ユーザーにとっては天国かもしれないし、牢獄かもしれません。どちらに転ぶかは、AIエージェントが「便利な機能」で終わるか、「なくてはならない存在」になれるかにかかっています。
AI産業通信 編集部Company Data
基本情報
| 正式名称 | Notion Labs, Inc. |
|---|---|
| 設立 | 2013年6月 |
| 代表者 | Ivan Zhao(CEO / 共同創業者) |
| COO | Akshay Kothari |
| CFO | Aditya Agarwal(元Dropbox CTO) |
| 本社 | サンフランシスコ、カリフォルニア州 |
| 累計調達額 | 約3.43億ドル(約515億円) |
| 推定企業価値 | 約110億ドル(約1.7兆円)※2025年12月テンダーオファー時点 |
| 主要投資家 | Sequoia Capital、Index Ventures、Coatue Management、GIC |
| 公式サイト | https://www.notion.so |