Microsoft
「仕事道具にAIを埋め込み、インフラごと売る巨人」
- ☁️ クラウド&AIインフラ
- 🇺🇸 米国・レドモンド
- 📈 NASDAQ上場・時価総額3兆ドル超
Copilot有料ユーザー
1,500万人
Azure利用Fortune500率
95%
2025年度売上
約40兆円(2,817億ドル)
Microsoftとは?
四半期の設備投資額約5.3兆円
Microsoftが2026年第2四半期のたった3ヶ月で、AIデータセンターとGPUに投じた金額です。
日本の国家予算の防衛費(約8兆円)の半年分を、1四半期で使っている計算になります。
パソコンとOfficeの会社が、なぜここまでの巨額をAIサーバーに注ぎ込んでいるのか?その答えは、この会社の50年の歩みにあります。
Timeline
沿革
最初の商品はプログラミング言語「BASIC」。パソコンすらまだ珍しかった時代に、ソフトウェアだけを売る会社としてスタートしました。
IBMのパソコンに標準搭載されたことで「パソコン=Microsoft」の図式が生まれます。ゲイツは著作権を手放さなかったため、他社にもライセンスでき、爆発的に広まりました。
発売初日だけで100万本以上が売れた伝説的ヒット。Officeとセットで「仕事にはWindowsパソコン」という常識を世界中に定着させます。
Xbox、検索エンジンBing、Internet Explorerなど手を広げるものの、GoogleとAppleにモバイルとネット広告で大きく後れを取ります。「過去の巨人」と呼ばれ始めた停滞期です。
ここがすべての転換点です。「モバイルファースト、クラウドファースト」を掲げ、Windowsへの執着を捨ててAzure(インターネット上の貸しコンピュータ事業)を全社の柱に据えました。
プログラマーが世界中で使うコード共有サービスを75億ドルで取得。開発者コミュニティを丸ごと取り込みました。同じ年、時価総額でAppleを抜き「復活」を市場が認めた瞬間です。
まだChatGPTが生まれる3年も前の話です。ナデラのクラウドファースト戦略の延長線上にあった賭け——「AIを自分で作るより、最高のAIチームにインフラを提供して一緒に育てる」という発想でした。
ChatGPTの爆発的ブームを受け、累計100億ドル超をOpenAIに投入。同時にWord・Excel・TeamsなどおなじみのOffice製品にAIアシスタント「Copilot」を組み込み始めます。
Copilotの有料ユーザーは1,500万人に到達。Azureの成長率39%のうち14ポイントがAI関連サービスによるもので、「AIが実際にお金を生む段階」に入りました。
About
Microsoftを一言で
「AIを作る会社」ではなく「AIを届ける会社」——それが今のMicrosoftの最も正確な説明です
- WordやExcel、Teamsなど数億人が毎日使う仕事道具にAIを直接埋め込む戦略をとる唯一のテック企業
- OpenAIの最大出資者として、ChatGPTの頭脳をAzure上で企業に届けるパイプ役
- 新しいアプリに乗り換えさせるのではなく「すでにある場所にAIを渡す」——これが他社には真似しにくい最大の強み
- Activision Blizzard買収でXbox含む世界3位のゲームパブリッシャーにもなり、OS・クラウド・AI・ゲームの全レイヤーを持つ
VS
何が違うのか?
業界の常識 vs Microsoft
AIモデルは外部調達、インフラは自前で作る
GoogleやMetaは自社でAIモデルを研究・開発し、その技術力で勝負する。
AIの頭脳はOpenAIから借り、それを届けるクラウド基盤に四半期5.3兆円を投じる。
既存顧客の業務動線にAIを埋め込む
GoogleやAmazonは新しいAI専用サービスを作り、ユーザーに乗り換えてもらう。
WordやExcel、Teamsなど数億人がすでに使う仕事道具にAIを直接組み込む。
ハードにAI処理能力を標準装備させる
AI処理はクラウド上のサーバーで行い、端末はデータを送受信するだけ。
パソコン本体にAI専用チップを載せた「Copilot+ PC」でネットなしでもAIが動く。
「AIを作る会社」ではなく「AIを届ける会社」。
それがMicrosoftの選んだ勝ち筋です。
この戦略を設計し、実行しているのは誰か——次は、その人物たちを見てみましょう。
Leadership
経営陣
「共感」のCEOと「AI研究の最前線」から来た異物——対照的な二人が両輪を回す
Satya Nadella
サティア・ナデラ
「共感」で巨大組織を変えた人
インド工科大学ハイデラバード校 / ウィスコンシン大学CS修士 / シカゴ大学MBA / Microsoft 1992年入社 / Azure事業責任者を経てCEO
2014年のCEO就任後、「Windowsが全て」だった社内文化を壊し、クラウド→AIへと二度の大転換を主導しました。技術力よりも「共感」と「成長マインドセット(何でも学ぶ姿勢)」を経営の核に据え、社員22万人の意識を変えたリーダーです。
Mustafa Suleyman
ムスタファ・スレイマン
ライバルチームのエースが来た
DeepMind共同創業者 / Greylock Partners / Inflection AI創業 / 2024年Microsoft入社
GoogleのAI研究機関「DeepMind」を2010年に共同創業した、AI研究の最前線にいた人物です。その後AIスタートアップ「Inflection AI」を立ち上げましたが、2024年にチームごとMicrosoftに合流。Copilot、Bing、広告を含むコンシューマー向けAI戦略全体を統括しています。
経歴
| 学歴 | インド工科大学ハイデラバード校(電気工学)→ウィスコンシン大学(CS修士)→シカゴ大学(MBA) |
|---|---|
| 前職 | Microsoft内でBing、SQL Server、Azure事業部を歴任。Azure事業責任者として売上を急成長させた実績がCEO抜擢の決め手 |
| 現職 | Microsoft会長兼CEO。OpenAI出資の決断、四半期5.3兆円のAI投資方針、全社戦略の最終意思決定者 |
ナデラの最大の功績
ナデラの最大の功績は技術選択ではなく、「何でも知っている文化」から「何でも学ぶ文化」への組織変革です。この空気の変化がなければ、OpenAIへの大胆な出資もCopilotの全社展開も実現しなかったでしょう。
経歴
| 学歴 | オックスフォード大学(哲学・神学を学ぶも中退) |
|---|---|
| 前職 | DeepMind共同創業者としてAIの医療応用などを推進→Googleに買収後は応用AI部門を率いる→独立してInflection AIを創業 |
| 現職 | Microsoft AI CEO。Copilot・Bing・広告を含むコンシューマーAI製品群の責任者 |
スレイマンの存在が持つ意味
スレイマンの存在は、MicrosoftにとってOpenAI依存リスクへの「保険」でもあります。OpenAIとの関係が変質した場合に備え、社内にAIの設計思想を理解するトップ人材がいることの意味は大きい。スレイマンについては、この後さらに深掘りするセクションがあります。
スレイマンが統括するCopilotは、いま大きな進化の転換点にあります。
ひとこと補足
Copilot Wave 3は何が変わったのか
「質問に答えるAI」から「仕事を片づけるAI」へ——3段階の進化を整理します
Copilotの進化は、3つの波(Wave)で整理するとわかりやすいです。Wave 1は「チャットボット」——WordやExcelの中で「この表を要約して」と聞くと答えが返ってくる一問一答です。Wave 2で対話が賢くなり、複数ファイルをまたいで文脈を保ちながら会話できるようになりました。でもまだ、指示を出すのは人間の仕事でした。
Wave 3で決定的に変わったのは、AIが「自分で判断して、複数の作業をまとめて終わらせる」ようになったことです。「取締役会の準備をして」と一言伝えると、社内データを集め、スライドを作り、出席者にカレンダー招待まで送る——いわゆる「AIエージェント」と呼ばれる動き方です。「答えを出す機械」から「仕事を片づける機械」への進化、と言えばわかりやすいでしょう。Vodafoneは全従業員約6万8,000人にCopilotを導入し、一人あたり週3時間——就業時間の約10%を節約しています。
もう一つ大きいのが「Copilot Studio」の存在です。プログラミングの知識がなくても、自社専用のAIエージェントを画面上の操作だけで作れるツールです。「うちの社内規程に詳しいAI」や「見積書を自動で作るAI」を、専門家なしで組み立てられる。Lumen Technologiesはこの仕組みを活用したセールス業務の効率化で年間5,000万ドルのコスト削減を見込んでいます。AIの本当の民主化は「誰でも使える」ことではなく、「自分の仕事に合ったAIを自分で作れる」ことだとすれば、Copilot Studioはまさにそこを狙っています。
Technology
Microsoftのコア技術
AIを「作る」のではなく「届ける」——その配送網を支える3つの技術基盤
Microsoftの強みは、AIそのものを発明することではありません。OpenAIが作った頭脳を、世界中の企業や個人に届けるためのインフラ——つまり「配送網」を持っていることです。その配送網は大きく3つの層で成り立っています。
Fortune 500の95%が使う「AIの貸し倉庫」
Azure(アジュール)
企業向けクラウド&AIインフラ
Azureはインターネット上の「貸しコンピュータ+貸し倉庫」サービスです。企業はサーバーを自前で買わなくても、Azureを通じてデータの保管やアプリの稼働ができます。競合はAmazonの「AWS」(クラウド市場シェア約33%で首位)とGoogleの「Google Cloud」(約12%)。Azureは約21%で2位ですが、成長率39%という伸びは3社中トップで、そのうち14ポイントがAI関連サービスによるものです。とくに注目すべきは「Azure OpenAI Service」——企業がChatGPTと同じAI技術を自社システムに組み込んで使えるサービスで、すでに6万社以上が利用。Coca-Colaは5年間で11億ドルのクラウド&AI投資契約をAzure上で締結しています。AIの頭脳はOpenAIが作り、それを企業に届けるパイプがAzure——この分業構造こそがMicrosoftの競争力の源泉です。
月30ドルで「もう一人の同僚」が手に入る
Microsoft 365 Copilot
WordやExcelに住むAIアシスタント
Word、Excel、PowerPoint、Teams——何億人もが毎日使っている仕事道具に、AIを直接埋め込んだのがMicrosoft 365 Copilotです。「この議事録を要約して」「売上データをグラフにして」と話しかけるだけで作業をこなしてくれます。月額30ドルの追加料金が必要ですが、すでに1,500万人が課金しており、年間売上ランレート(ARR)は80億ドル規模に成長しています。GoogleやAmazonが「新しいAIサービスに来てもらう」戦略なのに対し、Microsoftは「すでにいる場所にAIを届ける」。この差は大きいです。
コードの55%をAIが書く時代
GitHub Copilot
プログラマー向けAIペアプログラマー
GitHub Copilotは、プログラムを書く人のためのAIです。コードの続きを自動で提案してくれるので、プログラマーは「考える」ことに集中できます。GitHubとAccentureの調査によると、GitHub Copilotを使った開発者はコード作成速度が55%向上したと報告されています。いわば「隣にめちゃくちゃ優秀な先輩が座っていて、常にヒントをくれる」感覚です。Microsoftが2018年にGitHubを買収した時点では、この未来は見えていなかったかもしれません。しかし結果的に、世界中の開発者コミュニティを押さえていたことが、AI時代に巨大なアドバンテージになりました。
この3つの技術基盤を設計した人物の一人が、次のコラムで深掘りするムスタファ・スレイマンです。
ひとこと補足
ムスタファ・スレイマンという「異物」
GoogleのAI研究の心臓部を作った男が、なぜライバル企業に移ったのか
DeepMindという名前を聞いたことはあるでしょうか。Googleが持っているイギリスのAI研究機関で、囲碁の世界チャンピオンを破ったAI「AlphaGo」を作ったチームです。AI研究の世界では「最も優秀な集団のひとつ」として知られ、ここから生まれた技術がGoogleの検索や翻訳、医療AIの基盤になっています。スレイマンはそのDeepMindを2010年に共同創業した人物——つまりGoogleのAI戦略の心臓部を作った張本人です。その人がMicrosoftに来たというのは、野球で言えばライバルチームのエース投手が移籍してきたようなもの、しかもコーチ陣ごと連れてきました。
2024年、スレイマンは自ら立ち上げたAIスタートアップ「Inflection AI」のチームとともにMicrosoftに合流しました。普通の企業買収ではなく「技術ライセンス契約+主要メンバーの採用」という形を取ったのも異例です。今はCopilot、Bing、広告を含むコンシューマー向けAI全体の責任者として、MicrosoftのAI製品が「どんな体験になるか」を設計しています。面白いのは、スレイマンがただの技術者ではないことです。AIの危険性について本を書き、「速く作る」だけでなく「安全に届ける」という視点を製品に持ち込もうとしている。
ナデラがこの「異物」を迎え入れた理由には、もう一つ構造的な理由があります。2023年末、OpenAIではCEO解任騒動が起き、MicrosoftとOpenAIの関係が一時的に大きく揺らぎました。あの混乱は、「AIの頭脳を外部パートナーに頼るリスク」をMicrosoft自身に突きつけた事件でもあります。もしOpenAIとの関係がさらに複雑化したとき——社内にAIの設計思想を根っこから理解できるトップ人材がいるかどうかは、文字通り生死を分けます。DeepMindを作り、自分でAI会社を興し、AIの倫理にも精通しているスレイマンが社内にいることで、Microsoftは「OpenAIなしでもAI戦略を続けられる選択肢」を手にしました。
Partnerships
パートナーシップ
AIの頭脳・計算チップ・大口顧客——3社で見えるMicrosoftのエコシステム構造
MicrosoftのAI戦略は、自社だけで完結しません。「AIの頭脳」を作るパートナー、「AIを動かすチップ」を供給するパートナー、そして「AIにお金を払う大口顧客」——この3者を押さえることで、AIを届けるインフラが成立しています。
累計100億ドル超を出資し、ChatGPTと同じAI技術をAzure経由で企業に届ける独占インフラを担います。ただし2023年末のCEO解任騒動以降、関係は「一体」から「協力的な緊張」に変化しつつあります。
MicrosoftのデータセンターにはNVIDIAのGPU(AIの計算に使う高性能チップ)が大量に導入されています。四半期5.3兆円の設備投資の多くが、このチップの調達先に流れています。
5年間で11億ドルのクラウド&AI契約を締結。Azure OpenAIを使い、消費者一人ひとりに合わせた広告キャンペーン「Create Real Magic」を展開しています。
頭脳も部品もお客さんも、全部パートナーで固めている
OpenAI=AIの頭脳、NVIDIA=AIの計算チップ、Coca-Cola=大口顧客の代表例
この3社を並べると、MicrosoftのAIエコシステムの構造がくっきり見えてきます。自分で頭脳を作るのではなく、最高の頭脳を持つ相手に投資し、最高のチップを大量に買い、それを束ねて大企業に売る——「AIを届ける会社」というポジションは、パートナーシップの設計そのものから生まれています。なおMicrosoftはOpenAI一本足のリスクにも手を打ち始めており、自社製AIチップ「Maia」の開発やAnthropic(ClaudeというAIを作っている会社)のモデル統合も検討中です。
◆ 金融メディアも技術メディアも「MicrosoftのAI収益は本物」と見ている
Voices
業界の声
MicrosoftのAI需要は本物であり、数字がそれを裏付けている。Azureの成長率39%、そのうち14ポイントがAI由来——これは期待ではなく実需だ。
Microsoftは単なるソフトウェア企業から「AIインフラの巨人」へと変貌した。クラウド、チップ、モデル、アプリケーション——AIスタックの全レイヤーを持つことが、GoogleやAmazonにはない構造的優位をもたらしている。
出典: The AI Infrastructure Titan: A Comprehensive Research Feature on Microsoft
Fortune 500企業の95%がAzureを利用し、そのうち約70%がCopilotを導入済み。Microsoftは企業のAI導入において、事実上のデフォルト選択肢になりつつある。
出典: Microsoft Statistics 2026: Revenue, Cloud, AI & Workforce Insights
外部評価は総じて好意的です。ただ、これだけの規模の賭けに、死角がないはずはありません。
⚠ Risk Assessment
リスク評価
最大の武器が最大の弱点——MicrosoftのAI戦略が抱える構造的リスク
独占禁止法——複数の戦線で規制当局に包囲されつつある
Activision Blizzard買収(約690億ドル)によるゲーム市場の支配力、AzureとOffice 365のセット販売、OpenAIへの巨額出資による排他的関係——EU・米国・各国の規制当局が、それぞれ別の角度からMicrosoftを注視しています。一社がOS・クラウド・AI・ゲームの全レイヤーを押さえる構造は、競争を促す側の規制当局から見れば「放置できない巨大さ」です。
OpenAI関係の変質——AIの頭脳を他社に依存する構造的リスク
MicrosoftのAI戦略の核心は「OpenAIが作ったAIを、Azureで企業に届ける」という分業構造です。ところが2023年末のCEO解任騒動では、両社の関係が「一心同体」から「協力的な緊張関係」に変わりつつあることが露呈しました。OpenAIが独自のインフラ構築を模索しているとも報じられており、もしAzure独占提供の契約条件が見直されれば、Microsoftの最大の差別化要素が根底から揺らぎます。スレイマンの採用はまさにこのリスクへの備えですが、GPTシリーズに代わる頭脳を一朝一夕で用意できるかは未知数です。
AI投資の回収——四半期5.3兆円を使って元が取れるのか
2026年第2四半期、Microsoftは過去最高の375億ドル(約5.3兆円)を設備投資に投じました。そのほとんどがAIデータセンターとGPUの調達です。Copilotの有料ユーザーは1,500万人ですが、Office 365全体のユーザー数は数億人規模——課金転換率はまだ数%にとどまっています。AIの需要が想定ほど伸びなかった場合、巨額の設備投資は利益率を圧迫する重荷に変わります。
EU AI Act・データ規制——Copilotが扱うデータが広がるほどリスクも膨らむ
Copilotは社内メール、議事録、顧客情報、財務データ——あらゆる業務データにアクセスして「仕事を片づける」ことが売りです。しかしAIが触れるデータの範囲が広がるほど、各国のデータ保護規制との衝突リスクも大きくなります。グローバルに展開するほど、対応コストとコンプライアンスリスクが膨らむ構造です。
Windows 10サポート終了——AI PCへの移行が計画通り進むか
2026年10月、Windows 10のサポートが終了します。MicrosoftはこのタイミングでAI専用チップを搭載した「Copilot+ PC」への法人買い替え需要を見込んでいますが、企業のPC更新は景気や予算に左右されます。リスクとしての深刻度は上の4つより低いですが、MicrosoftのAI戦略がクラウドだけでなくデバイス側にも及んでいるからこそ、見落とせないポイントです。
全部つながっている——リスクの連鎖構造
5つのリスクは独立しているように見えて、実は連鎖している
OpenAIとの関係が変質すれば、Azureの差別化が弱まり、巨額投資の回収がさらに難しくなる。規制当局がOpenAIとの排他的関係を問題視すれば、契約の見直しを迫られる可能性もある。「AIを届ける会社」というポジションは、AIの頭脳もチップも規制環境も——自分だけではコントロールできない変数に囲まれているということです。Microsoftの強さは「全レイヤーを持つこと」ですが、裏を返せば「全レイヤーにリスクがある」ということでもあります。
What’s Next
今後の展望
AIが「答える」から「働く」へ——次の勝負はエージェント時代
リスクを直視した上で、それでもMicrosoftが描いている未来像を見てみましょう。4つの展望に共通するのは、「AIを届けるインフラ」の範囲をクラウドからPC、ゲーム、さらには量子コンピューティングまで広げようとしていることです。
Copilotが「自分で働く」フェーズへ
Wave 3で登場したAIエージェントは、まだ対応できる業務範囲が限定的です。次のWave 4以降では、経費精算、契約書チェック、人事手続きといったバックオフィス業務全体のプロセス自動化を目指しています。2026年度後半の進捗が、Copilotの真価を測る最大の試金石です。
自社チップ「Maia」でNVIDIA依存を断ち切る
自社製AIチップ「Maia 200」はすでに推論コスト(AIが回答を出す際の計算コスト)を30%削減する成果を出しており、次世代ではAIの学習処理にも自社チップを拡大するロードマップを描いています。チップまで自前になれば、コスト構造もサプライチェーンも自社でコントロールできる——Azureの競争力に直結する話です。
Xboxモバイルストア開設(2026年7月予定)
Activision Blizzard買収で手に入れた「Candy Crush」「Minecraft」といった人気タイトルを武器に、スマホ向けのゲームストアを開設する計画です。成功すれば、MicrosoftはPCでもスマホでもゲーム配信の入口を押さえることになります。
量子コンピューティングへの布石
Atom Computingとの協業で量子コンピュータ「Magne」の開発を進めています。今すぐ売上に貢献するものではありませんが、「次の時代のインフラも押さえておく」という姿勢は、クラウドに早くから賭けたナデラの戦略と地続きです。
「全レイヤーを持つ」ことの本当の意味
1つの事業が失速しても、別のレイヤーが補う構造
Copilotの有料ユーザーが伸び悩んでもAzureのクラウド収益が支え、Azureの成長が鈍化してもAI PC買い替え需要が補完する。この「1つの事業が失速しても、別のレイヤーが補う」構造こそ、Microsoftの最大の戦略的保険です。OS・クラウド・業務アプリ・PC・ゲーム・チップまで全レイヤーを自社で持つ企業は他にありません。どれか1つが当たればいいギャンブルではなく、全体で支え合うポートフォリオ——それが2026年度売上3,300億ドル予測の根拠であり、この企業が「AIを届けるインフラ」として簡単には崩れにくい理由です。
Microsoftは「AIを作る会社」ではありません。すでに何億人もが毎日開いているWord、Excel、Teamsの中にAIを埋め込み、それを動かすクラウド基盤ごと企業に売る——「AIを届ける会社」です。GoogleやMetaが自前でAIモデルを研究開発して技術力で勝負する中、MicrosoftはOpenAIに頭脳を任せ、自分はインフラと配送網に四半期5.3兆円を張った。この選択が、他のテック巨人とは決定的に違うポジションを作っています。
その戦略は、正直に言って地味です。新しいAIサービスを派手に打ち出すのではなく、すでにある仕事道具にAIをそっと差し込む。Copilotの有料ユーザー1,500万人、Azureを使うFortune 500企業の95%——数字が示しているのは、「みんなが使っている場所にAIを届けた者が勝つ」というシンプルな事実です。OS・クラウド・チップ・アプリの全レイヤーを持つ構造は、他社が数年で模倣できるものではありません。
ただし、この構造を維持するコストも巨大です。年間数百億ドルの設備投資、OpenAIとの複雑化する関係、世界各国の規制対応——「最も有利なポジションにいる企業」であると同時に、「そのポジションを維持する困難さも最大級」というのが2026年のMicrosoftの実像です。この構造は本当に持続可能なのか? その答えは、次の数四半期の数字が教えてくれるはずです。
Takeaway
この記事のポイント
- MicrosoftはAIを自分で作るのではなく、OpenAIの頭脳をAzure経由で届ける「配送網の会社」に変わった
- 四半期5.3兆円の設備投資——その大半がAIデータセンターとGPUに注がれている
- Copilot有料ユーザー1,500万人、ARR 80億ドル規模。AIが実際にお金を生むフェーズに入った
- Fortune 500の95%がAzureを利用。企業向けAIインフラの事実上のデフォルトになりつつある
- 最大の武器が最大の弱点——OpenAI依存・規制リスク・投資回収の不確実性は同時に走っている
— 読了お疲れさまでした。この企業の最新動向は、AI産業通信で随時更新します。
編集部コラム
「退屈な巨人」が一番怖い
AIの話題になると、どうしても目が行くのはOpenAIやGoogleです。新しいモデルが出た、ベンチマークで記録を塗り替えた、AGI(汎用人工知能)に一歩近づいた——そういう派手なニュースが毎週のように流れてくる。でも正直なところ、編集部が一番「怖いな」と感じたのはMicrosoftでした。この会社は新しいものを発明していません。やっているのは、すでに何億人もが毎朝開いているWordやExcel、Teamsに、AIをそっと差し込んでいるだけです。ユーザーは新しいアプリをダウンロードする必要もなければ、使い方を覚え直す必要もない。気づいたら、いつもの仕事道具が勝手に賢くなっている。この静かさが、たぶん一番厄介です。
新興のAIスタートアップは、どれだけ優れた技術を持っていても「まずユーザーに使ってもらう」という最初のハードルに苦しみます。一方Microsoftには、Fortune 500の95%がすでにAzureを使い、Office 365のユーザーは数億人規模という既成事実がある。「ユーザーを獲得する」のではなく「既にいるユーザーにAIを渡すだけ」——この構造的な優位は、技術のブレイクスルーでは覆せません。一番怖いのは、派手に新しいものを作る会社ではなく、すでに使っているものを静かに変えてしまう会社です。
AI産業通信 編集部Company Data
基本情報
| 正式名称 | Microsoft Corporation |
|---|---|
| 設立 | 1975年4月4日 |
| 代表者 | サティア・ナデラ(会長兼CEO、2014年就任) |
| AI部門トップ | ムスタファ・スレイマン(Microsoft AI CEO、元DeepMind共同創業者) |
| 本社 | アメリカ・ワシントン州レドモンド |
| 従業員数 | 約228,000名 |
| 株式市場 | NASDAQ上場(ティッカー: MSFT) |
| 2025年度売上 | 2,817億ドル(前年比15%増) |
| 主要製品・サービス | Windows、Microsoft 365(Office)、Azure、Xbox、LinkedIn、GitHub |
| 公式サイト | https://www.microsoft.com |